迷子放送で呼ばれた名前
夏祭りで迷子になったのは、七歳の弟ではなく僕だった。
弟の手を引いて屋台を回っていたはずが、金魚すくいの前で友達に会い、話しているうちに弟が消えた。
青ざめて探し回ると、会場放送が流れた。
『高校二年生の制服姿の方を、弟さんがお待ちです』
名前まで、はっきり呼ばれた。
周囲の人が一斉に僕を見る。部活帰りの制服が目印になりすぎた。
本部へ走ると、弟は綿あめを食べながら平然としていた。その隣に、同じクラスの彼女がいた。紺色の浴衣で、いつもの眼鏡を外している。
「保護しました」
「僕が保護者なんだけど」
「迷子はそっち」
彼女が笑った。
弟は彼女を見つけ、兄がいないと訴えたらしい。学校名と僕の名前まで全部話したという。
「お兄ちゃん、この人好きなんだよ」
弟が余計な情報まで放送しそうな声で言った。
僕は弟の口を塞いだ。
彼女は聞こえなかったふりをして、綿あめを少し分けた。
花火の時間が近づき、三人で河原へ向かった。人混みの中、今度は弟の左右の手を僕と彼女でつないだ。
「これなら誰も迷子にならない」
彼女が言った。
花火が上がると、弟は両手を振り上げた。僕らの手も引かれ、三人で万歳する形になる。
大きな音の直後、彼女が僕に何か言った。
「聞こえない」
「弟くん、正直だねって」
顔が熱くなった。
「全部信じないで」
「じゃあ、どこまで本当?」
次の花火が上がるまでに答えられなかった。
帰り道、弟は僕の背中で眠った。彼女が隣を歩く。
「迷子放送、もう一回してもらう?」
「何で」
「返事を探しています、って」
からかわれているのかと思ったが、彼女は前を向いたまま耳まで赤かった。
僕は眠る弟を背負い直した。
「見つかってる」
彼女がこちらを見る。
「返事、見つかった?」
「相手がまだ帰ってないなら」
僕は空いている手を差し出した。
彼女は少し笑い、その手を握った。
翌日、弟に口止め料としてアイスを買った。それでも新学期、彼は校門まで僕を送りに来て、彼女を見つけると大声で叫んだ。
「迷子のお兄ちゃん、返事もらった?」
教室中に知られるより先に、僕らは同時に弟を追いかけた。