退役章の免税欄
退役兵ダリオネ・ヴェクの小さなパン屋へ、ヴォルカン・ザガン男爵が差押札を貼った。
「三年分の営業税が未納だ。今日から店も窯も男爵家のものだ」
ダリオネは片脚を引きずりながら、王国軍の退役章を見せた。国境で負傷した者には、生涯の営業税免除が与えられる。
「免税証も毎年提出しています」
「古い兵士への褒美など、私の代で終わりだ」
男爵は免税証を奪って二つに裂き、焼きたてのパンを床へ落とした。店先に並ぶ客へ向かって言う。
「今後、この窯は私の宴会用だ。こいつには裏口で薪割りでもさせる」
ダリオネは差押命令書を机に置いた。
「免税対象と承知した上での差押えと、明記してください」
「何度も言わせるな」
ヴォルカンは〈退役章および免税証を確認したが、領主権限で無効とし、店舗を接収する〉と書き、署名した。差押札にも同じ印を押し、窯の扉へ貼る。
窯の熱で、命令書の余白に文字が浮かび始めた。
税務用紙には、退役者保護条項が熱文字で埋め込まれている。〈免税権の否定および証書破棄を命じた者は、軍人恩給侵害として王立税務法廷へ自動通報される〉。その下に、ヴォルカンの署名が黒く定着した。
「こんな細字、読めるものか!」
「だから私は確認をお願いしました」
店の鐘が鳴り、税務判事と退役軍人局の騎士が入ってきた。裂かれた免税証は問題にならない。原本は軍歴台帳にあり、ダリオネの退役章が窯火を受けて同じ番号を光らせている。
判事は男爵家の徴税帳も開いた。ヴォルカンは過去三年、免税分を王都から補填金として受け取る一方、退役者からも二重に税を集めていた。受領欄には毎年、彼の署名がある。
客の一人が床のパンを拾い、埃を払って棚へ戻した。誰も差押札には触れなかった。触れる必要がなく、熱で印だけが剥がれ落ちたからだ。
税務判事は軍章へ一礼し、令状を読み上げた。
「ヴォルカン・ザガン。軍人恩給侵害、違法差押えおよび税補填金の二重取得により、王立税務法廷は貴殿の逮捕を命じる」