連番紙幣の帰り道
閉店後の銀行で、窓口係の鹿島志帆は、金庫から消えた五百万円を盗んだと告発された。
現金は彼女の個人ロッカーに入っていた。
「監視映像にも、鹿島さんのカードで金庫へ入った記録があります」
支店長の武市惣兵が、泣きそうな新人たちの前で言う。
「信頼していたのに残念だ。全額返せば、家族には知らせずに済ませよう」
志帆がカードは机に置いたままだったと説明しても、武市は横領認定書へ署名した。
本部検査官はロッカーの紙幣を一枚ずつ計数機へ通す。画面に赤い警告が並んだ。
「この連番は、通常金庫の在庫ではありません」
紙幣は一週間前、本部が不正融資の囮調査用として武市へ直接渡したものだった。番号は極秘登録され、受領書には彼の署名がある。
「調査用現金を鹿島が盗んだのだ!」
「受領後、どこへ保管しましたか」
「支店長室の耐火庫だ。私以外は開けられない」
武市は即答した。
検査官が耐火庫の履歴を映す。昨夜十一時、武市の指紋で開かれ、五百万円が取り出されている。その八分後、志帆のロッカーが管理者用非常鍵で開いた。非常鍵の使用申請にも武市の電子署名があった。
「点検のためだ!」
だが申請理由は〈横領現金を発見させるため〉。武市は後で意味を整えるつもりで、先に自分の行動を正当化する言葉を書いていた。
金庫入室に使われた志帆のカードも、武市の机の引き出しから見つかった。監視映像の死角へ移動させた記録は、支店長室の防犯センサーに残っている。
志帆は、返金誓約書を検査官へ返した。
本部人事役員が通知書を読み上げる。
志帆は前月から、武市が高齢客の口座を使って不正融資を隠していると本部へ相談していた。だから囮紙幣が支店へ送られたのだ。武市は調査対象が自分だと気づき、通報者と思った志帆へ罪を移そうとした。検査官は、彼女が提出していた相談記録を全員へ示し、沈黙していた行員たちにも証言を求めた。
「武市惣兵。横領、証拠捏造および部下への虚偽告発により、懲戒解雇とし、警察へ身柄を引き渡す」