配信事故のあと、ログアウトしない三人
ケンゴの指示一つで、レイド配信は全滅した。
ボスの残り体力は一%。彼は「今だ、全員攻撃」と叫び、防御陣を解かせた。直後に隠し攻撃が発動し、四人のキャラクターは同時に倒れた。二万人が見ていた画面へ、灰色の敗北表示が浮かぶ。直前まで勝利を祝っていた音楽だけが、設定どおり数秒流れ続けた。
コメント欄は速かった。
『指揮交代しろ』
『三人がかわいそう』
『ケンゴ抜きなら勝てる』
復活地点へ戻ったケンゴは、配信を切った。ボイスチャットも自分から抜け、三人の声を聞く前に通知を閉じた。怒られるより、沈黙のあとに切られるほうが怖かった。ギルドホールの自室から装備を運び出し、脱退ボタンを開く。以前のゲームでも、一度の判断ミスでフレンド欄を空にされた。ログインした翌朝、ギルド名だけが消えていた。だから今回も、夜が明ける前に自分で終わらせる。今度は自分から消えれば、三人に追放させる手間をかけない。ギルド倉庫へ全財産を移し、短い謝罪文を入力した。
決定を押す前に、足元へ大盾が落ちた。
盾役のアヤメが、自分の最高級装備を床へ置いている。
「耐久ゼロ。修理しておいて。次も使うから」
「次は別の指揮役で行ける」
「盾を預けた相手がいないと困る」
職人のリコは、工房の予約板を操作した。ケンゴの名前で四人用作業台を朝まで確保し、壊れた装備を一列に並べる。
「素材集めからやり直し。逃げる暇ないよ」
回復役フェリスは、解散したはずのパーティー招待を再送した。参加枠を三つ埋め、自分だけキャンプ椅子へ座る。
「承認されるまでログアウトしません」
「僕のせいで負けたんだぞ」
アヤメは盾の修理代を送金し、リコは再戦用の図面を開き、フェリスはパーティー欄の空白を指で示した。誰も判断ミスを褒めない。次は残り三%で防御、指示は復唱、配信は録画のみ。条件は厳しく、居場所はそのままだった。
「また全員いなくなると思った」
ケンゴが招待を承認すると、灰色だった四人の名前が緑へ変わる。
深夜二時。ギルドホールの接続者一覧から、誰の灯りも消えなかった。