配送完了のあと

十四時十分。鷲尾巽の部屋に、萩生田千颯からの荷物が届いた。

小さな段ボールには、巽の腕時計、歯ブラシ、赤いマフラーが詰められている。マフラーは初詣の帰りに千颯が巻いてくれたものだ。端のほつれを、彼女が白い糸で雑に縫ってある。

五日前から、千颯のメッセージには一度も既読がつかなかった。

巽は箱を見て、ようやく意味が分かったと思った。返事の代わりに、持ち物を返したのだ。伝票の品名欄には、千颯らしい丸い字で、ただ〈巽のもの〉と書かれていた。

十四時十二分。

〈荷物、受け取った。言葉もなしに終わらせるんだな〉

送信。未読。

腹立ちに任せ、赤いマフラーをゴミ袋へ入れる。腕時計は止まっていた。針は十一時四十七分を指している。千颯と初めて会った時刻だと、彼女はよく言っていた。

十四時十五分、配送業者から電話が来る。

『先ほどのお荷物ですが、日時指定は一週間前に登録されています。備考欄に「帰宅後、本人へ直接話す」とありました。念のため』

巽は箱の伝票を見る。受付日は、千颯が最後に「明日、会いたい」と送った夜だった。

十四時十七分。知らない番号から着信。

千颯の弟だった。

『姉の携帯、事故のあと警察に預けたままです。連絡が遅れてすみません。五日前に――』

その先の言葉は短かった。短いほど、取り消せない意味になった。

巽は床へ座った。未読は拒絶ではなかった。読む人が、もういなかった。

十四時十九分、箱の底に二重になった段ボールを見つける。剥がすと、封筒と新しい合鍵が貼られていた。

〈荷物を返したら、次は私の部屋じゃなくて、二人の部屋に置こう。明日、答えを聞かせて〉

赤いマフラーをゴミ袋から取り出す。白い縫い目の一つが切れ、糸が指に絡んだ。

携帯には、十四時十二分の言葉が残っている。送信取消の期限は過ぎている。千颯の端末が戻れば、いつか家族が目にするかもしれない。

十四時二十分。巽は〈荷物、受け取った〉から始まる未読のメッセージを、自分の画面から削除した。