金平糖と竜胆

八朔日向の和菓子店へ、毎週月曜、竜胆が一本届いた。

花は、使っていない木型の箱に入っている。差出人はなく、紫の花だけが薄紙に包まれていた。最初の一本が届いたのは、祖父から受け継いだ菊の木型が棚から消えた翌週だった。

木型がなければ、秋の看板商品を作れない。日向は警察へ届けるほどではないと思いながら、祖父の手の跡まで失った気がして眠れなかった。百瀬が作る干菓子の形が乱れても強く叱れず、店の空気だけが薄く固まっていった。竜胆は、その沈黙へ毎週一本ずつ差し込まれた。

候補は、見習いの百瀬、材料を納める神崎、隣の茶舗で木工もする鉢嶺。三人とも木型がなくなった日の閉店後、店に残っていた。

日向は花の包みを広げた。薄紙は、割れた干菓子を包んで試食に回すときだけ使うもの。糸には、店の紫芋餡の染み。そして竜胆は毎回、空になった木型箱の中へ置かれている。

「花は進み具合の印だったんですね」

六本目の月曜、日向は隣の茶舗を訪ねた。奥の作業台で、百瀬が新しい菊の木型を彫っていた。横には鉢嶺がいる。

百瀬は掃除中、古い木型を落として割った。祖父の品を大切にしている日向を知っていたから、解雇されるだけでなく、もう菓子作りを任せてもらえないと思い、破片を隠した。だが逃げることもできず、鉢嶺に頼んで、閉店後に同じ型を彫り直していた。一工程終えるたび、店の裏庭に咲く竜胆を一本、箱へ入れたという。

「全部直してから謝れば、叱られても役に立てると思って」

日向は持ってきた布包みを開いた。中には、割れた古い木型のもう半分がある。

「これは祖父の代からひびが入ってたの。あなたが落とさなくても、今季で引退させる予定だった」

百瀬は泣きそうな顔で、それでも最後まで謝った。日向は新しい型を受け取り、翌朝、二人で最初の干菓子を抜いた。花びらの一枚が少し欠けたが、菊に見えた。

欠けた一つを半分に割り、百瀬へ渡す。日向も口に入れた。

「失敗作は、ちゃんと甘いね」