金曜の卒業生
金曜日が消える母校では、卒業生だけが木曜の夜に校舎へ入り、土曜の朝に出られる。参加できるのは卒業写真で欠席扱いになった者だけ。教室では昔の席に座り、校内放送が名前を呼ぶまで立ってはいけない。
斑目蒼士は、十年ぶりの同窓会に出た。
卒業写真の日、蒼士は盲腸で欠席した。友人の朔路は写真に写っているはずだったが、なぜか受付名簿に名前があった。
「お前も欠席だったっけ」
「金曜にはな」
朔路は笑った。彼は三年前、工事現場の事故で死んでいる。蒼士も周囲も、その事実と目の前の朔路を矛盾とは思わなかった。消える金曜では、卒業した者と死んだ者を区別しない。
二人は三年二組へ入った。机には当時の落書きが残り、窓の外はずっと夕方だった。黒板の日付は卒業式の前日で止まり、教卓には人数より一つ多い紙コップが伏せてあった。
蒼士は会社を辞めたことを話した。上司と揉め、恋人にも愛想を尽かされ、実家へ戻るか迷っている。朔路は昔と同じように、答えずに消しゴムをちぎった。
「俺、お前の電話に出なかったんだ」
事故の前夜、朔路から着信があった。蒼士は残業中で、あとでかけ直すつもりだった。翌朝にはもう遅かった。
「知ってる」
「何を話したかった?」
「名前を呼ばれるまで喋るなって規則だろ」
校内放送が、参加者を一人ずつ呼び始めた。呼ばれた者は立ち上がり、廊下へ出る。二度と教室へ戻らない。
蒼士の名が先に呼ばれた。
朔路は机の上へ、小さなチョークを置いた。
「土曜になったら、それで電話番号を書け」
「誰の」
「これから会うやつのだよ」
蒼士は立った。聞きたかった言葉はもらえなかった。だが、死者に過去の返事を求め続ける自分を、朔路は昔から嫌っていた気がした。
廊下へ出る直前、後ろで放送が朔路の名を呼んだ。振り返ってはいけない。蒼士はそのまま階段を下りた。
土曜の朝、校門の外に一人で立っていた。手にはチョークがある。白ではなく、工事現場で使う青い墨の色だった。
上着の背中には、誰かの五本指の跡がついていた。掌だけが欠けた、粉っぽい青の手形だった。