金糸のベールは燃える

婚約発表の夜、リュシーのベールは彼女の罪を映した。金糸に触れた者の記憶を映すという名品が、見知らぬ男との密会を大広間へ投影したのだ。婚約者セドリックは弁明を聞かず、彼女を追放した。偽の記憶を織り込んだのが義妹マルティナだと知ったのは、流刑地で死ぬ直前だった。

目を開けると、控室。金糸のベールを抱えたマルティナが、前と同じ無邪気な笑みを浮かべている。

「姉様に一番似合うと思って」

一度目のリュシーは礼を言って頭から被った。今度はベールを受け取ると、卓上の蝋燭へ端を近づけた。

「ええ。ですから皆様の前で、仕立てを確かめましょう」

「燃やすなんて!」

金糸は普通の炎では燃えない。だが記憶魔法を織り込んだ部分だけは、青い火を上げる。前の人生で牢番から聞いた知識だった。

リュシーが扉を開け、列席者の前で火を移す。青い炎がベールを走り、空中へ映像を吐き出した。現れたのは密会ではない。夜の工房で、マルティナが織師へ金貨を渡す姿だった。

『姉の顔で、この男に抱かれている記憶を作って』

本人の声が大広間に響く。マルティナはベールを踏み消そうとしたが、近衛が腕を取った。

「違うわ、姉様が私に言わせたの!」

前回、セドリックはこの叫びを信じた。リュシーは彼を見た。縋らない。婚約を続ける価値があるか、見極めるだけだ。

セドリックはゆっくりマルティナへ向き直った。

「説明はリュシーからではなく、君から聞く」

彼が初めて、彼女の涙より証拠を選んだ。

セドリックはリュシーへ近づこうとしたが、彼女が手を上げると足を止めた。前回なら許しを当然のように求めただろう。今は、彼女が距離を決めるまで待つ。その小さな停止だけが、過去と違う兆しだった。

時計が九時を打つ。前の人生ではこの鐘と同時に砕けた婚約晶が、台座の上で澄んだ光を保っている。表面の文字だけが変わった。

《婚約継続の決定権:リュシー》

彼女はすぐには答えず、燃え残った金糸を指から払い落とした。今度は、選ぶのも許すのも自分だった。