鉱山王の磁石が賃金を選ぶ

鉱山主は、三か月分の賃金を払わなかった。

「魔鉱ゴーレムを倒せなかった罰だ。嫌なら坑道から出ていけ」

だが坑道の出口も、道具代、寝床代、空気代まで加算された借金契約で塞がれている。病人が休めばその家族へ罰金が移り、働くほど負債が増えた。女坑夫ファラは仲間のつるはしを借り、魔鉱ゴーレムの最深部へ降りた。

彼女の《報酬指定ドロップ》は、労働を奪うボスを倒すと、未払いを回収する限定品を確定させる。

ゴーレムの胸には硬い魔鉱が何層もある。ファラは掘らなかった。毎日聞いてきた地鳴りの間隔に合わせ、空洞になった左踵へ一撃を入れる。巨体は自重で崩れ、胸から黒い磁石が落ちた。

《正当分配石》

ファラが事務所へ戻ると、鉱山主は護衛を並べていた。

「反抗した者は全員、違約金を上乗せする」

彼女は机へ磁石を置いた。

何も引き寄せない。鉱山主が鼻で笑う。

ファラは壁の勤務表を一枚剥がし、磁石の下へ敷いた。

途端に、屋敷の奥で錠前が弾けた。

金庫から銀貨が飛び出し、廊下を曲がり、窓を抜ける。銀貨は坑夫一人一人の前で正確に止まり、勤務日数、危険手当、夜勤分まで数えて袋へ収まった。病死した坑夫の分は遺族の名札へ積まれる。

鉱山主が金貨へ飛びつくが、硬貨は指の間を抜けた。

「私の金だ!」

磁石に文字が浮かぶ。

――採掘売上から、契約済み賃金を先に分配。残額のみ所有者へ返還。

最後に金庫から飛んできたのは銀貨ではなく、二重帳簿だった。表には赤字、裏には過去最高益。護衛たちは自分の未払い分を受け取ると、鉱山主ではなく出口を守った。

坑夫たちは借金契約を机へ積む。違法な天引き分まで返されたため、残高は全員ゼロだった。

ファラは自分の袋から銀貨一枚を取り、つるはしを貸した老人へ渡す。

「これは賃金じゃない。最初の共同出資金です」

翌朝、看板は「鉱山主所有」から「坑夫組合運営」へ掛け替えられた。最初に決まった規則は、利益配分ではなく、負傷者が賃金を失わず休める日数だった。

黒い磁石が粉になり、帳簿の末尾へ鑑定結果を記す。

【魔鉱ゴーレム限定SSR《正当分配石》――未払い賃金全額回収、世界初】