鍵を預けるロッカー

侑佳が締め出されたのは、雨の火曜日だった。

ごみを出すだけのつもりで、スマートフォンも財布も部屋に置いたまま、オートロックの扉を閉めてしまった。管理会社が来るまで二時間、濡れたサンダルで軒下に立った。

担当者は解錠後、二つの方法を勧めた。

「信頼できる方へ合鍵を預けるか、駅前の鍵保管ロッカーを契約してください」

翌日、侑佳は合鍵を二本作った。鍵屋で「ご家族用ですか」と聞かれ、曖昧に笑った自分があとから悔しかった。用途を説明できない鍵にも、ちゃんと役目はあるはずだった。

一本は白いカバー。もう一本は銀色のまま。

白い鍵を誰かに渡す場面を想像した。友人は遠くに住み、近所に恋人はいない。頼める相手がいない事実を、鍵屋の小さな袋に詰められた気がした。

駅前ロッカーの申込書には、月額八百円とある。暗証番号と本人確認で、二十四時間取り出せる。便利なのに、「鍵を預ける人もいない人向け」と書かれているようで、侑佳は腹を立てた。

申込期限はなかった。だからこそ、何日でも先延ばしにできた。

一週間後、また雨が降った。侑佳は白い鍵を持ち、友人へのメッセージを途中まで書いた。

〈遠いのはわかってるけど、念のため持っていてくれない?〉

送れば、友人はきっと引き受けてくれる。けれど、緊急時に一時間以上かかる相手へ安心の役まで頼むのは、友情の証明ではなく不便の押しつけかもしれない。

侑佳は文章を消し、ロッカーの申込画面を開いた。

月額八百円。年間九千六百円。安くはない。それでも、誰かがいるふりをするより、自分に合う仕組みへ払うほうを選んだ。

契約後、銀色の鍵をロッカーへ入れた。白い鍵は自宅の防災袋にしまう。

二本とも自分のための鍵だった。

ロッカーの扉を閉めると、電子音が一度鳴った。独身でいる不安に、毎月料金を払い続けるのだと思えば少し悔しい。将来、預けたい相手ができて解約するかもしれない。できなくても、八百円を払い続ける。

侑佳は契約控えを財布へ入れた。頼れる人の人数ではなく、今日の自分を確実に家へ戻す方法を選んだ、その費用ごと持ち帰った。