鏡文字は出口から読む

「文字をどちらから読むか分かるだけ? 裏返せば済む」

迷宮院の試験で、ノマルドは無能と判定された。

【能力:《読路》――一つの文字列について、書き手が意図した読み進める方向を理解する】

意味は翻訳できず、罠も解除できない。彼は王家の鏡迷宮へ案内札を磨く仕事を与えられた。

ある晩、鏡魔軍が迷宮を逆用して王宮へ侵入した。

千枚の鏡に同じ古代文字が浮かび、術師たちが左から右へ読むたび、新しい敵兵が鏡から現れる。大公女サファニアは鏡を割らせたが、破片一枚ごとに門が増えた。

敵の将軍は迷宮最奥から笑う。

「入口の呪文を読み続けるがいい。こちらの兵は尽きぬ」

ノマルドは毎日、鏡の裏を磨いていた。文字は正面から見ると左から右へ並ぶ。だが刻まれているのは鏡の裏側だ。書き手は裏から彫り、表へ透かしていた。さらに各鏡の縁には、入口側ほど新しく、最奥ほど古い磨耗が残る。歴代の案内人は出口から戻るときだけ、文字へ指を添えていたのだ。

《読路》

意図された読み方は、最奥の文字から入口へ向かう逆順だった。

意味を知らなくても、発音は各鏡の下に音符として記されている。ノマルドは一番奥の音から逆に叫んだ。

迷宮の光が反転する。

開いていた鏡門が出口へ変わり、王宮へ踏み込んだ鏡兵を一人ずつ吸い戻した。兵たちは前へ進むつもりで走るほど、故郷の陣へ深く戻されていく。王宮側の廊下には、敵が落とした武器だけが乾いた音を立てて残った。割れた鏡片さえ小さな出口となり、敵の矢や魔獣まで最奥へ送り返す。

最後に敵将自身が鏡へ引かれ、向こう側で扉を叩いた。ノマルドが最初の文字を読み終えると、千枚の鏡はただの銀面へ戻った。

試験官が「逆から読んだだけ」と言う。

サファニアは鏡を一枚外し、その男へ裏面を向けた。

「入口からしか読まぬ者は、出口を敵に使われる」

大公女は迷宮の白鍵をノマルドへ渡す。

「次に道が文字で閉ざされたら、意味より先に、誰がどこから書いたかを見よ」