長すぎるきんぴら
法律相談の待合室で、大庭初音は母のきんぴら丼を開いた。細いごぼうとにんじんが、ごはんの上に同じ長さでそろっている。母は包丁仕事だけは几帳面で、端から端まで五センチと決めていた。
初音には、元恋人が残した百八十万円の借金がある。名義は初音だった。返すと言われて信じ、連絡が取れなくなってからも、母には別れたことしか話していない。今日の相談も、健康診断だと嘘をついて家を出た。
母に言えば、すぐ貯金を出すだろう。娘を助けたあとで、自分の老後を切り詰める人だ。頼れば早い。けれど初音が怖いのは、叱られることより、また誰かに全部を片づけてもらい、自分で数字を見ないまま終わることだった。
蓋を開けると、ごまの香りがした。ごぼうは冷えても歯に強く当たり、噛むほど少しずつほどけた。初音は五センチずつそろった束を、端から食べた。
半分ほど進めると、一本だけ異様に長いごぼうが出てきた。箱の幅いっぱいに曲がり、下のごはんへ潜っている。母が切り損ねたのだろう。初音は箸で持ち上げ、一口で吸い込もうとした。先が唇に触れても、終わりがまだ箱に残っている。
借金も同じだった。全額という長さで見るたび、飲み込めないものに見えた。
初音は長い一本を箸で押さえ、途中で二つに切った。さらに短くし、一口ずつ噛む。切ったから消えるわけではない。けれど、口に入る長さにはできた。
相談員に呼ばれる直前、最後の一片を食べた。母へ借金の肩代わりを頼む文面を消し、「今夜、数字だけ一緒に見てほしい」と打ち直す。助けてほしいことと、代わりに払ってほしいことを、同じにしないためだった。
相談室の扉には、予約した名字が貼られていた。初音はそれを見て、自分の名義で作られた借金なら、自分の名義で整理を始められると思った。母の貯金へ移すのではなく、分割された数字を一つずつ自分の前へ並べるために来たのだ。
空の弁当箱の底には、曲がったごぼうの油跡が一本残った。初音はそれを拭かず、相談室へ持って入った。