門鍵に刻まれた封鎖

疫病が広がった南区へ、薬を運ぶ門は閉ざされていた。

門衛騎士セヴランの首には、鍵穴型の呪印がある。

市長の大鍵が閉じている限り、彼は門を開けられない。無理に取っ手へ触れれば、首の印が締まり、息を奪う。

薬師モルガナの荷車が着いたとき、門の向こうでは何十人もの咳が聞こえていた。

「開けて」

「できない」

「鍵を奪えば?」

「あなたを斬るよう命令される」

声は冷静だったが、セヴランの爪は手袋を貫いて掌へ食い込んでいる。

市長は城壁の上から言った。

「薬師よ、お前を新しい鍵主にしてもよい。騎士の所有印を書き換え、責任ごと引き受けろ」

モルガナは差し出された大鍵を受け取った。

鉄の軸には市長の名、柄にはセヴランの命が刻まれている。

自分の名を彫れば、門も騎士も思うままになる。

彼女は薬箱から消毒用の蒸留酒を出し、鍵へ浴びせた。

「錆は落ちんぞ」と市長が笑う。

「落とすのは蝋です」

市長名の溝には、契約蝋が埋められていた。

モルガナが火打ち石を鳴らすと、青い炎が鍵の表面だけを走る。

蝋が溶け、名前が流れ落ちる。

セヴランの首から鍵穴が外れ、黒い金具となって石畳へ落ちた。

大鍵はただの鉄棒になった。

モルガナはそれをセヴランへ渡す。

「開けるかどうかは、あなたが決めて」

騎士は門を見る。

市長を見る。

最後に、隙間から伸びてきた病人の細い手を見る。

彼は自分の意思で閂を上げた。

薬を運び終えたあと、モルガナは北門も開き、セヴランを外へ出した。

「もう街を守らなくていい。好きな場所へ」

彼は草原へ歩いていった。

夜まで戻らない。

翌朝、南区へ二台目の薬車を引いていくと、坂道の途中で車輪が泥にはまった。

背後から力が加わり、荷車が軽く動く。

旅装に着替えたセヴランが押していた。

「出ていったのでは?」

「街には戻らない。あなたの行き先についていく」

彼は大鍵を彼女へ差し出すのではなく、二人の間の荷台へ置いた。

「鍵は共同で持とう。閉めるときも開けるときも、相談できるように」

所有者を失った鍵が、薬瓶の隣で明るく鳴った。