隣町のごみ札

隣接する二つの集合住宅は、一本の道路を挟んで向かい合っていた。

〈若葉館〉のごみ置き場には、毎週、指定袋ではない大量のごみが置かれる。中には別地域の収集札が付いた袋まであった。

管理組合の藤波森雪里が見張ると、向かいの〈青松荘〉に住む狩野原毅臣が、明け方に車で運び込んでいた。

声をかけると、毅臣は袋を置いたまま笑った。

「ごみ置き場は町内のものだろ。どこへ出しても同じ。うちの収集日は遅いんだよ」

雪里は、建物ごとに契約と収集日が違うと説明した。

「細かいルールを押しつけるな。俺の車を撮ったら盗撮で訴える」

翌週、若葉館の回収は不適正ごみのため見送られた。住人の袋まで残り、夏の暑さで臭いが広がった。

二つの建物の大家と管理会社が合同で調査する。

毅臣は、映像の車は同型車だと主張した。

若葉館のカメラにはナンバーが映り、青松荘のゲート記録には、同じ時刻に毅臣の車が出入りした履歴がある。さらに車内の袋から落ちた宅配ラベルには、毅臣の部屋番号が残っていた。

自治体の収集札にも識別番号があり、青松荘の契約世帯へ配布されたものと一致した。

「自分のごみを、近い場所へ移しただけだ。犯罪みたいに言うな」

自治体職員は、収集契約のない集積所へ継続的に廃棄した行為として、条例に基づく指導と費用請求の対象になると説明した。

青松荘の大家は、もっと重大な資料を出した。毅臣は自室で清掃業を無断営業し、顧客宅から回収したごみまで若葉館へ運んでいた。住居の事業利用、廃棄物の無許可収集、近隣への反復投棄。契約解除を通知するという。

毅臣は雪里へ言った。

「回収費を払えば済むだろ。向かい同士、助け合えよ」

雪里は、回収されず残った住人全員の袋を指した。

「助け合いは、自分の負担を向かいへ投げることではありません」

自治体が不法投棄分だけを別車両で回収し、その費用を毅臣へ請求する手続きへ入った。

青松荘のゲートから毅臣のナンバーが削除され、若葉館のごみ札が正しい世帯へ再配布された瞬間、隣町へごみを逃がしていた男の引っ越し先だけが、どこにも簡単には捨てられない問題になった。