雨読みの観測生
レナト・ミュールは、晴れた日にも傘を持っていた。
風見塔で雲を眺め、授業の予定表へ小さな印をつける。能力測定では【属性出力:2】。火も水も弱く、天候科のシアラ・ヴェルトからは「空を見ているだけ」と笑われた。
公開測定の日、空は青かった。
シアラは雷術を披露するため、訓練場の上へ黒雲を呼んだ。観客は歓声を上げる。レナトだけが、遠くの雲の縁を見ていた。
「今は呼ばないほうがいい」
「弱者はいつも、できない理由を探すのね」
シアラが杖を掲げる。人工の黒雲へ、山向こうから流れてきた湿った風がぶつかった。雲は急に厚みを増し、制御外の雷が学院塔へ落ち始める。
教師たちは防壁を張ったが、雷は地面を跳ねて観覧席へ走った。
レナトは傘を開いた。骨には細い銅糸が巻かれ、柄から地面へ鎖が伸びている。彼は風見塔で読んだ通り、訓練場の低い場所へ傘を立てた。続けて排水溝の蓋を開け、雨水を外へ逃がす。
雷は傘へ集まり、銅糸を通って地中へ沈んだ。黒雲は力を失い、激しい雨だけを落とす。
雨の幕の向こうで、シアラは杖を抱えて立ち尽くした。
訓練場の予定表が風見塔から運ばれてきた。レナトの小さな印がついた日は、屋外授業がさりげなく別の場所へ移されている。教師たちは自分の判断だと思っていたが、机に置かれた彼の短い観測メモを読んで予定を変えていた。
屋根が壊れなかった日、洪水を避けた日、飛行訓練が乱気流へ巻き込まれなかった日。災害が起きなかったため、どれも功績として残らない。
シアラは濡れた髪をかき上げた。
「雲を呼べない者が、天候科の首席になれるものか」
レナトは傘の銅糸を外しながら答える。
「空は従わせるものではありません。変わる前に気づくものです」
その直後、彼が指さした方角で雲が割れ、夕日の筋が差した。雨が止む時刻まで、彼の予定表には正確に印がついていた。
教官は派手な落雷跡ではなく、無傷の校舎を見回した。
新式の天候盤が、雷を呼んだ力ではなく、学院が無傷で済んだ原因を追う。風見塔の印、銅糸の傘、開かれた排水路が同じ名へ結ばれた。
【災害回避寄与:98%】
教官はレナトへ風見塔の金鍵を渡し、シアラの杖へ使用制限札を巻いた。
【天候科・権限更新】
首席観測生:レナト・ミュール
雷術制限生:シアラ・ヴェルト