雨音とログアウト

土曜の午後三時、純花はベッドへ寝転んだまま、四十二人目のプロフィールを左へ送った。

外は朝から雨だった。窓ガラスに細い水の筋ができ、ベランダの物干し竿から一定の間隔で雫が落ちる。予定はない。洗濯は部屋干し、買い物は昨日済ませた。何か有意義なことをしようと思いながら、昼からマッチングアプリを見続けていた。

旅行が好き。おいしいものが好き。よく笑うと言われます。

似た文章が続く。純花もプロフィールにほとんど同じことを書いている。悪い人はいない。だから余計に、誰へ「いいね」を押せばいいのか分からなかった。

一人に押す。すぐに結果は出ない。別の人を開く。写真を拡大する。自己紹介を読む。職業欄を見る。戻る。

その繰り返しで一時間が過ぎ、純花は誰かを探しているのか、孤独を感じないために指を動かしているのか分からなくなった。

テーブルの上には、昼に食べた焼きそばの容器が残っている。ソースの匂いは薄くなり、割り箸の先が茶色く乾いていた。友人のグループチャットは未読二十六件。写真共有アプリには、雨のカフェや映画館の投稿が並んでいる。

マッチングアプリから〈あなたに興味がある人がいます〉と通知が来た。開けば、少なくとも誰かに選ばれた気分になれる。純花は通知を押しかけ、手を止めた。

アカウント設定の一番下に「ログアウト」があった。退会ではない。プロフィールも会話も残る。ただ、次に開くにはメールアドレスとパスワードを入れ直す必要がある。

純花はログアウトした。

画面が最初の案内へ戻る。急に静かになったわけではない。雨音は同じで、部屋は散らかり、午後はまだ長かった。それでも、無意識にアプリを開くまでに一手間できた。

焼きそばの容器を捨て、ミルクを温めた。表面に膜ができ、スプーンで端へ寄せる。今日は誰かに会えない土曜日ではなく、雨の日に家にいる土曜日でいい。

ログインは明日でも来週でもできる。純花はパスワードを思い出そうとせず、湯気で曇る窓をしばらく見ていた。