雪が消さなかった足跡

雪が、私を追ってきた男の足跡を消してくれた。

山小屋の電話から救助隊へ連絡し、私は暖炉の前で毛布に包まれた。別れた男が町からつけてきて、扉を蹴り、窓を割ろうとした。吹雪が強まったあと姿は見えなくなったが、近くに潜んでいるはずだ。

「ここはあなたの小屋ですね」

電話の向こうで確認され、私はそうだと答えた。住所を訊かれたときだけ、一度窓辺の郵便受けを見た。番地を忘れたのは、恐怖で混乱しているせいだと自分から説明した。

壁には家族写真が何枚も掛かっていたが、すべて伏せてある。男との思い出を見たくないからだ。入口の長靴は私には大きすぎた。急いで逃げ込んだ際、昔置いていた男のものを履いたと説明した。

テーブルにはカップが二つあった。一方の紅茶は湯気を立て、もう一方は表面まで凍っている。二つ目は男が勝手に使ったと話したが、そのカップだけ埃がなく、縁には私の口紅が重なっていた。昨日から男を待ち伏せしていたように見える、と隊員に言われたが、窓際に置いたせいだと答えた。

窓ガラスは外から割られたと言ったが、破片のほとんどは雪の上ではなく小屋の外壁側へ落ちていた。

救助隊が到着すると、雪上には一組の足跡しかなかった。林道から小屋へ入り、外へ出た跡はない。

「吹雪で男の足跡だけ消えたんです」

私は扉を開け、長靴の底を見せた。

隊長は足跡と靴底を比べた。ぴたりと一致する。さらに伏せた写真を起こすと、写っていたのは男とその家族で、私は一枚にもいなかった。

「登記上、この小屋の所有者は通報された男性です」

床下から、鈍い音がした。

私は暖炉の薪が爆ぜたと言った。だが隊員が敷物をめくると、地下収納の取っ手が現れ、内側から何度も叩かれていた。

男は雪の中から追ってきたのではない。私が合鍵でこの小屋へ入り、帰宅した所有者を殴って床下へ閉じ込めた。外に足跡がないのは、男が一度も外へ逃げられなかったからだ。

雪が消したのは加害者の足跡ではない。

残っていた一組こそ、被害者の家へ侵入した私の足跡だった。