霜の朝に間に合うように

 丘の牧場では、納屋の灯りが消えたあと、動物たちが干し草の輪を作る。

 老馬の穂波、羊の毛毬、三羽の鶏をまとめる赤冠、納屋猫の鼠戸。夜の会議では、翌日の天気と寝床の具合を確かめる。

 湯気の立つ茶はないが、干し草へ昼の日差しが残り、噛むたび甘い香りがした。

「明け方、強い霜」

 穂波が鼻を上げる。

 長く牧場に住み、風の匂いで冷え込みを読む。

「子牛の寝床が薄い」

 鼠戸は昼間、柵の隙間から見ていた。

 生まれて間もない子牛は母牛のそばで眠っているが、藁が湿り、夜中には冷えそうだった。

「人間を起こす?」

 毛毬が訊く。

「牧場主は三晩続けて出産を見守った」

 赤冠が首を振る。

「今夜は眠らせよう」

 動物たちは、自分たちで乾いた藁を運ぶことにした。

 穂波が納屋の奥の束を鼻で押し、毛毬たちが口で少しずつ引く。赤冠と鶏たちは細い藁を一本ずつ運び、鼠戸は近道を案内した。

 作業は思うように進まない。

 羊の毛へ藁が絡み、鶏は途中で虫を見つけ、穂波は古い脚を休ませる必要があった。

「朝に間に合うかな」

 毛毬が息を切らす。

「一頭で全部運ぶなら、間に合わない」

 穂波は言う。

「今は何頭いる?」

 皆が顔を見合わせ、また動き始めた。

 子牛の寝床へ、乾いた藁が少しずつ積もる。

 母牛は目を開けたが、何も言わず体をずらし、動物たちが入りやすい場所を空けた。最後に鼠戸が藁の中央を踏み、柔らかさを確かめる。

「会議より長かった」

 赤冠がぼやく。

「会議は口だけだから」

 穂波が笑った。

 夜明け前、霜が牧草を白くした。

 牧場主が納屋へ来ると、子牛は乾いた藁の中で母牛へ背を寄せ、温かく眠っていた。

「こんなに敷いたかな」

 首を傾げながら、牧場主は穂波の背についた藁を払う。

「お前たち、何かした?」

 穂波は鼻から白い息を吐いた。

 その日の午後、牧場主は納屋全体へ新しい干し草を厚く敷いた。

 夜の会議では、皆の寝床まで柔らかい。

「人間、気づいた?」

 毛毬が訊く。

「理由は知らなくても、寒かったことは分かった」

 鼠戸が丸くなる。

 外では霜が月明かりを返し、納屋には乾いた草と温かな乳の匂いが満ちていた。

 穂波は脚を折って横になり、子牛の寝息を遠くに聞く。朝に間に合わせたのは藁だけではない。誰かを気にかける温度が、納屋の隅々までゆっくり行き渡っていた。