青い煙で閉じた研究塔
錬金研究塔が聖女エスティラを追放した翌日、初級合成釜から青い煙が出た。
煙は天井へ上がらず、床を這った。吸った研究員は指が震え、書いた数字を逆さに読み始める。主任カイムドは換気窓を開けたが、風を受けた煙は二階、三階へ広がった。
「材料は安全なものだけだ!」
確かに一つずつなら無害だった。だが溶剤と冷却粉の蒸気が混ざると、神経を狂わせる。これまで混ざらなかった理由を、誰も記録していなかった。
掃除係扱いされていたエスティラが、釜ごとに薄い祈りの筒を立て、蒸気を種類別の排気口へ導いていたからだ。彼女は研究内容を理解していないと笑われた。実際には、色も臭いもない蒸気の性質を、祈りの反応で見分けていた。
一時間後、研究塔は封鎖された。換気すれば町へ煙が出る。閉じれば内部の薬品が反応する。王都消防隊は塔の周囲三街区を立入禁止にし、研究成果より避難費用の請求書を先に置いた。
主任は中和液を釜へ投げ込んだ。青い煙は消えたが、代わりに緑の泡が階段を流れ、保存中の試薬へ触れて固まった。扉も記録棚も泡に封じられ、十年分の研究成果は塔の中にあるのに、誰も取りに入れなくなった。
研究員たちは窓越しに自分の論文が泡へ沈むのを見ていた。解除薬の配合表も塔の中にあり、外からは一行も読めなかった。
川沿いの染色組合では、エスティラが染料釜の上へ細い光の筒を立てていた。組合長ヘティが、咳をせず働く職人たちを見回す。
「毎年、藍の季節は三人倒れていた。煙を一つにしないだけで違うのか」
「混ざった後で清めるより、混ざる前に分ける方が軽い祈りで済みます」
組合は彼女へ危険手当と研究予算を付けた。祈りを掃除ではなく、安全技術として扱った。
夕方、研究塔から防毒面を付けた使者が来た。
「主任が戻れと言っている。塔を開けられたら、共同研究者の名を与える」
エスティラは新しい排気図を丸めた。
「錬金研究塔の蒸気分離契約は、退去命令を受けた日に終了しています」