青い花の保護室
「もう家へ戻らなくていいのよ」
相談員の女性はそう言って、私を青い花柄の車へ乗せた。
叔父の怒鳴り声と、外から鍵を掛けられる部屋。学校で相談した私を、彼女は保護施設へ連れていくという。車が町を離れるほど、胸の重石が軽くなった。
着いた家は森の中にあった。玄関に施設名の看板はなく、青い花の小さな印だけが扉に描かれている。
部屋の窓は十センチしか開かなかった。相談員は転落防止だと説明したが、私は一階にいた。
靴は玄関で預けられた。
「外へ飛び出して迷わないため」
同じ年頃の子が五人いた。皆、名前ではなく「四月」「六月」と生まれ月で呼ばれている。私には「十一月」という札が渡された。
一番長くいるという「二月」は、壁の傷を数えて百八十日を超えたと言った。けれど相談員は、全員が今週保護されたばかりだと説明した。
浴室の棚には歯ブラシが十本以上あり、それぞれ別の月の札が残っていた。今いる人数より多い理由を尋ねても、相談員は古い備品だと片付けた。
夕食後、電話を借りたいと言うと、連絡は職員が代行すると断られた。学校の先生へ無事を伝えてほしいと頼む。相談員は笑って頷いたが、番号を聞かなかった。
夜、廊下の向こうから車の音がした。カーテンの隙間を見ると、市の児童相談所と書かれた車が門前に止まっている。
私は窓を叩いた。
相談員が飛び込み、私を床へ押さえた。部屋の灯が消される。ほかの子たちも職員に口を塞がれていた。
門の外から声がする。
『無許可で子どもを収容しているとの通報がありました。開けてください』
相談員の優しい顔から笑みが消えた。
「見つかると、元の名前へ戻される」
彼女は青い花の札を私の服へ縫い付ける。裏には、施設へ寄付した大人の番号が記されていた。
叔父の部屋から救い出されたと思っていた。
けれど、あの家には窓を割れば出られた。ここでは窓の外にも鉄板が下りる。
「十一月、あなたは今夜から私たちの家族よ」
錠の音が重なった。
青い花は保護の印ではなく、返さない子につける名札だった。