願い星は人工衛星
山の観測所では、天体識別AIが夜空の光をすべて分類した。
恒星、惑星、人工衛星、航空機。
見学者が流れ星だと喜んでも、
「人工衛星です」
と即座に訂正する。
治療中の少女が、病院の許可を得て観測会へ来た。
長い階段を上れないので、職員が屋外へ小さな画面を用意した。
空を横切る光を見つけ、少女は手を合わせた。
「退院できますように」
AIが言った。
「対象は人工衛星です。願望実現との相関はありません」
少女は怒らなかった。
画面の下へ折り紙の星を一つ貼り、
「でも、見つけてくれてありがとう」
と言った。
一年後、少女はまた来た。
髪が少し伸び、歩ける距離も増えていた。
同じ時期、同じ軌道を人工衛星が通過した。
識別AIは数秒黙り、表示を出した。
「願い星」
職員は誤認識を訂正しようとした。
データ上は間違いなく人工衛星だ。
ところが分類を書き換えても、少女の画面だけ「願い星」へ戻った。
少女は手を合わせなかった。
「去年のお願い、まだ途中だから」
代わりに、隣で車椅子に乗る少年へ言った。
「今度はあなたが使って」
少年は、明日の検査が痛くありませんようにと願った。
それから識別AIは、一年に一度、その人工衛星だけを「願い星」と表示した。
観測所は最初、故障として隠した。
しかし噂を聞き、願いを持つ人が少しずつ集まった。
試験に落ちた学生。
家族と仲直りしたい人。
亡くなった相手へ一言だけ届けたい人。
AIは願いの内容を保存せず、星の正体も訂正しなかった。
最初の少女は成人し、観測所で働くようになった。
治療は終わったが、すべてが元通りになったわけではない。
走れず、疲れやすい。
それでも「あの願いはかなった?」と聞かれると、
「途中のまま、ここまで来た」
と答えた。
ある年、人工衛星は運用を終え、軌道から外れた。
予定時刻になっても光は現れない。
集まった人々が残念そうに空を見ていると、識別AIが画面へ表示した。
「願い星は視認できません」
続いて、もう一行。
「願いは継続できます」
職員になった女性は、折り紙の星を画面へ貼った。
最初の一枚と同じ場所だった。
AIは本物の星と機械の光を正確に見分ける。
ただ一つだけ、誰かが温かい手で願いを渡した光を、用途ではなく思い出の名前で呼び続ける。