飛竜厩舎の消えた境目

竜騎士団がシュネアを追放した朝、飛竜十二頭が互いの檻を壊した。

一頭が唸ると、隣の雄が柵へ体当たりし、その匂いに雌竜が興奮する。鎖は切れ、翼が飼育員を薙ぎ、厩舎は鱗と藁の嵐になった。餌も訓練も昨日と同じだった。

団長コルデクは飼育長を責めた。

「なぜ急に群れを忘れた!」

「群れを忘れたのではありません。全部の匂いが混ざったんです!」

結界師シュネアは、檻と檻の間へ匂いだけを止める膜を置いていた。空気と声は通すため、飛竜は互いの存在を知りながら、縄張りを侵されたと感じずに済む。人の目には何もない。

コルデクは「獣は鞭で従わせる」と彼女を除隊させた。その一刻後、最強の竜騎士たちは、自分の竜へ近づくことすらできなくなった。

シュネアは同じ頃、王都郊外の幻獣保育園にいた。親を失った子グリフォンが三羽、同じ籠で丸くなって眠っている。育成師ネーヴェは信じられない顔をした。

「昨日まで、別種の匂いがするだけで噛み合っていたのに」

「自分の寝床の匂いは残し、相手の恐怖臭だけを弱めました」

「押さえつけずに、安心できる距離を作ったのね」

保育園はシュネアを主任環境師に任命し、初めて孵った白翼獣の名付けまで任せた。

昼過ぎ、包帯だらけの竜騎士が伝令として現れた。

「十二頭を元の檻へ戻してくれ。団長は除隊命令を撤回し、騎士待遇にすると言っている」

シュネアは眠る幼獣の籠へ新しい境目を置き、伝令へ答えた。

騎士待遇という言葉に、シュネアは以前なら心を動かされたかもしれない。けれど団長は今も、飛竜を元の檻へ押し戻すことしか考えていない。なぜ怯え、どの匂いに反応したかを調べようとはしていなかった。保育園では、ネーヴェが三羽それぞれの寝床へ違う草を敷き、結界がなくても落ち着ける環境を作ろうとしている。術は鞭の代わりではなく、理解するまでの時間を稼ぐもの。その考えを共有できる場所でこそ、シュネアは力を使いたかった。

「竜騎士団との契約は、今朝で終了しています」