馬が伏せた瞬間

厩番アシュドは、討伐隊の軍馬へ奇妙な訓練を施していた。

口笛を吹くと、馬が腹を地面へつけて伏せる。

「戦場で寝る馬など役に立たん」

騎士長セレグは笑った。戦果盤の仮寄与率は1%。アシュドは剣を持たず、遠征中も馬の耳を撫でてばかりいる。

討伐対象は、石冠鳥。目が合った生き物を石へ変える魔獣で、高い崖から街道を見下ろしていた。騎士たちは鏡盾で視線を反らしながら接近する作戦だった。

だが崖へ近づいた瞬間、石冠鳥が翼を広げた。鏡盾に映った姿を見た馬たちが恐怖で立ち上がる。騎士の顔が盾の上へ出て、怪物の視線と重なりかけた。

アシュドが口笛を吹いた。

軍馬がそろって伏せた。

騎士たちは鞍ごと低く沈み、鏡盾の陰へ隠れる。石冠鳥の視線は空を切った。

「進め!」

セレグが命じても馬は立たない。アシュドは次の口笛を吹かず、伏せた馬の列をそのまま壁にした。鏡盾が低い角度で並び、怪物の視線を崖下から跳ね返す。

自分の眼光を受けた石冠鳥の脚が硬直した。

そのときだけ、アシュドは短く口笛を鳴らす。馬たちは立ち上がり、動けない怪物の真下まで騎士を運んだ。槍が胸へ届き、石冠鳥は崖から落ちた。

帰還後、セレグは「騎兵の統率で視線を封じた」と報告した。厩番の訓練は臆病な馬の矯正として扱われた。

戦果盤が馬具の記憶を再生する。騎士長の号令では馬は動かず、アシュドの口笛だけで伏せ、立ち、進んでいる。彼の合図がなければ、鏡盾より高い位置で全員が視線を受けていた。

アシュドが口笛を吹くと、大広間の外につながれた軍馬まで静かに伏せた。

騎士長だけが、立ったまま首位から落ちた。

騎士たちがアシュドへ膝をつこうとすると、軍馬も隣で伏せた。セレグが立てと命じてもどの馬も耳を動かさない。厩番が短く口笛を返して初めて、馬も騎士も新しい隊長の前で静かに起き上がった。

その口笛を待てる者だけが、次の騎兵隊へ名を連ねることになった。

【再算定完了】

【アシュド・討伐寄与率:1% → 93%】

【隊内順位:最下位 → 首位】

【役職更新:厩番 → 魔獣騎兵長】