骨番号零番

「骨は番号順に並べてください」

死霊術学院の解剖教師ユーデル・グリムは、骸骨標本の整理にうるさかった。大腿骨は棚三番、頭蓋は種族別、指骨は左右を混ぜない。本人も白骨族なので、生徒は時々彼を標本と間違えた。腰に下げているのも剣ではなく、長い指示棒だった。

放課後、助手の少女ナマリは標本箱に見覚えのない頭蓋を見つけた。額に「零」と刻まれている。

頭蓋の眼窩が紫に燃え、棚中の骨を吸い寄せた。完成したのは冥府皇リガル。千の死者を鎧にした古代の魔王であり、聖勇者に骨一片まで砕かれたはずの存在だった。

『貴様も死者となったか、勇者ユーデル』

ユーデルは指示棒で出席簿を示した。

「零番は名簿にありません」

棒の先が、頭蓋を軽く叩く。

冥府皇を形作る何千本の骨が、一斉に自分の棚へ戻った。肋骨は肋骨、牙は牙、呪いは呪い。最後に残った零番の頭蓋だけが空中で九つに割れ、白い粉になる。死者の軍勢を分類し直すことで消滅させた、元勇者の《葬列整序》だった。

ナマリは机の下から、その一部始終を見ていた。

ナマリは、冥府皇を組み上げていた骨の一本一本が、もとは授業用の大切な標本だと気づいた。ユーデルは敵を砕くのではなく、借りられた骨だけを傷つけず取り戻したのだ。自分も白骨族である教師にとって、骨は武器や残骸ではない。誰かが生きた形を学ぶための記録だった。勇者の慈悲が、棚番号の正確さとして残っている。

ユーデルは粉を骨灰箱へ掃き入れ、乱れた札を付け直した。床についた紫の焦げを研磨し、標本箱の「零」の文字を削る。欠けた棚板まで膠で直すと、教室は襲撃前より整然としていた。

「先生、本当に勇者だったんですか」

「現在の種族欄には白骨族と書いてあります」

「そういう意味じゃなくて」

ユーデルは自分の外れかけた小指を差し込み直し、少女へ指示棒を渡した。

「質問は整理してからにしなさい。まず棚四番が逆です」

ナマリが慌てて骨を入れ替える。教師は満足そうに顎を鳴らした。

「骨は番号順に並べてください」