魔女の瓶詰め庫
森領の冬は長い。野菜は採れるのに、雪月になる前に半分が傷んだ。
保存魔法を使えるのは、丘に住む魔女テレザだけ。前の領主は彼女へ高い許可税を課し、村人は一瓶ごとに銀貨を払えず、蕪を腐らせていた。
新領主代理ヴィオラは、税を瓶の数ではなく魔力炉一回につき銀貨三枚と決めた。一度に百瓶まで封じられるため、集団で使えば一瓶あたりは銅貨にもならない。
「誰が先に入れる?」と農婦が聞く。
「受付順ではなく、傷みやすいものから。葉物、果実、根菜の順です。瓶の持ち主は蓋に名札を付け、炉へ入れた数を壁へ書く。二十瓶につき一瓶だけ共同棚へ置く」
共同棚は、吹雪で畑を失った家や孤児院へ配る。魔女の報酬は税とは別に、炉一回につき保存瓶五つ。領主館も同じ順番、同じ率だ。
テレザは目を細めた。
「私の魔法を安売りさせるつもりかい」
「いいえ。一人ずつ交渉して値切られる代わりに、毎回決まった報酬を受け取ってください」
予約初日、領主館の料理長が肉の煮込み五十瓶を先に運び込んだ。
「館の冬宴に必要だ」
だが壁の順番表では、傷み始めた葉物が先だった。ヴィオラは自分の署名で料理長の札を最後尾へ移す。
それを見た村人たちは、規則が貧しい者だけに我慢を求めるものではないと知った。葉物を持つ農婦たちは遠慮をやめ、籠を炉前へ並べた。
最初の共同作業の日、農家は野菜を洗い、陶工は欠けた瓶を選別し、子どもたちは名札を結んだ。魔女は炉の前に座るだけでよかった。誰にも命じられていないのに、百瓶が一刻で整列した。
青い火が走る。蓋が一斉に、ぱちん、ぱちんと鳴った。
農婦は自分の二十瓶から一つを共同棚へ置く。続いて果樹園主、領主館の料理長、そしてテレザ自身が茸の煮込みを一瓶置いた。
ヴィオラが棚へ札を掛ける。
――吹雪の日に開ける瓶。
最後の蓋が小さく音を立て、色とりどりの夏が、透明な硝子の中で冬支度を終えた。棚の端には、次の百瓶を待つ空札がもう並んでいた。冬は長いが、空札の数だけ次の作業日も約束されていた。