魔導列車は定刻を譲らない

「能力なし。切符を持つより荷台に縛られるほうがお似合いだ」

車掌長は芦原迅の試験札を破り、魔導列車の石炭庫へ追いやった。

転移前、迅は鉄道の運行管理をしていた。だがこの世界の列車は魔力で走り、無属性の彼に触らせる計器はない。王都急行の採用試験も、発車前に不合格となった。

列車が峡谷へ入ったとき、屋根から金属音が連続した。

歯車小鬼グレムリンが車体へ取りついたのだ。低級魔物だが、ねじを一本ずつ外す習性がある。ブレーキ管が抜かれ、客車の照明が消えた。

前方では、落石で線路が塞がれている。

後方からは貨物列車が接近中。止まっても進んでも衝突する。さらに峡谷の上空に、グレムリンを産み落とす鉄翼竜が現れた。軍用列車さえ墜とした上位魔物だ。

「客車を切り離せ!」

車掌長が叫ぶ。それでは最後尾の三両を谷へ置き去りにすることになる。

迅は懐中時計を見た。王都中央駅への到着予定は十八時零分。前世で守り続けたのは数字ではない。その時刻を信じて待つ人々だった。

彼は運行表に指を置く。

「この列車は、定刻に着く」

一度だけ《到着時刻確定》を使った。

秒針が十八時を指した。

同時に世界のほうが列車へ帳尻を合わせる。線路上の落石は、すでに撤去済みの位置へ移る。グレムリンは乗車していなかった時刻へ押し戻され、屋根から消える。鉄翼竜は列車を襲う前の巣へ戻され、後続列車は安全な待避線に停車していた。

車体は一度も加速していないのに、窓の外には王都中央駅のホームがあった。

駅の標準時計が現実との差を測ろうとして全針を弾き飛ばした。遅延は零秒。走行距離だけが、通常の千分の一秒で消化されている。

出迎えに来ていた鉄道大臣グスタフが、貴賓席から立ち上がった。

「列車を速くしたのではない。到着という結果を、世界へ守らせたのか」

扉が開く。

客たちは荷台係へ文句を言うためではなく、命を預けた運行責任者を見るように迅を見た。車掌長が隠そうとした破れた札を、大臣が取り上げる。

その場で発行された金の職員証には、王国初の称号が刻まれていた。

――時刻統括官。

ホーム中の駅員が、迅へ向けて一斉に出発礼を送った。