魔王を殺す危険度は世界滅亡級
討伐軍が見つけた魔王は、十歳ほどの少年だった。
角は折れ、武器もない。聖騎士長は「今こそ功績を立てる」と剣を振り上げる。
危険鑑定士バルサだけが、その前へ立った。
【危険度鑑定:指定した対象が実行または放置された場合、起こり得る最大被害を等級で表示する】
彼女は少年を鑑定していた。放置した場合の危険度は最低。少年は地下神殿で、魔界の穴を自分の魔力で塞ぎ続けているだけだった。
だが騎士長は結果を握り潰した。
「魔王を庇う者も魔族だ」
刃が振り下ろされる。
バルサは少年ではなく、今まさに行われようとしている「魔王を殺す」という行為へ鑑定を向けた。
危険度――世界滅亡級。
同時に地下から、何億もの爪が石床を引っ掻く音がした。少年が死ねば封印が消え、本物の魔界が開く。
「止めろ!」
バルサは剣の腹へ体当たりした。刃が肩を裂いたが、軌道は逸れる。
亀裂から黒い指が一本伸びた。それだけで聖騎士たちの鎧が腐り始める。
少年は震えながら封印へ手を当て直した。亀裂が閉じ、黒い指も消える。
騎士長はなお剣を拾おうとしたが、部下たちは動かなかった。彼らの眼前にも、バルサの鑑定結果が共有されていたからだ。
「功績のために世界を壊すおつもりですか」
副長が騎士長を拘束する。討伐軍はその場で、少年を守る封印護衛隊へ改名された。
少年がバルサの傷へ小さな治癒魔法をかける。
「僕を怖くないの?」
「怖いのは、鑑定結果を隠す人です」
討伐軍は持参した聖杭を封印の補強材へ作り替えた。少年を斬るため集められた神官たちも、今度は彼の魔力を休ませる交代術式を組む。拘束された騎士長は「魔族の言葉を信じるのか」と叫んだ。副長は、信じたのは少年ではなく、目の前で示された危険と自分の良心だと答えた。功績の名簿から騎士長の名が消え、護衛隊全員の名が並んだ。
少年は初めて自分の名を名乗り、護衛隊は「魔王」ではなく、その名で彼を呼ぶと誓った。
封印の光が彼女の職業欄へ流れ込み、危険を正しく告げる名へ変えた。
【職業:危険鑑定士 → 災厄危険判定官】