魔王軍ひよこ班の盾
魔王軍幼年兵舎の卒業試験で、ルセアは小鬼のポコバと組んだ。
ポコバは兜の代わりに鍋をかぶり、槍を持つと穂先より先に自分が転ぶ。教官は名簿へ最初から赤い斜線を引いていた。
「防御役は有望な術者を選べ。そいつは来年もひよこ班だ」
「来年があるなら、今年守らなくていい理由にはなりません」
ポコバは戦闘では最下位でも、破れた靴を縫い、夜泣きする子の寝台へ水を運び、配給が足りなければ自分の芋を半分にした。ルセアが高熱を出した夜、朝まで額の布を替えたのも彼だ。教官の名簿には一つも載らない働きを、ひよこ班の子供たちは皆知っていた。
試験内容は、教官の魔弾から相棒を十秒守ること。ルセアは盾を置き、ポコバの前へ立った。教官は生意気な返答を罰するため、訓練弾を飛ばさず《黒炎弾》を撃った。
ほかの組は強い術者を土嚢の後ろへ隠し、弱い子を最初から組から外した。ポコバは自分の鍋兜を脱ぎ、ルセアへ差し出す。彼女はそれを彼の頭へ戻し、曲がった取っ手を顎紐代わりに結んだ。『私の装備は間に合ってる。あなたは芋を守って』。周囲の子供たちが笑い、教官だけが笑わなかった。
爆発。黒煙と紫の火が運動場を包み、見学していた子供たちの紙旗が吹き飛ぶ。教官は残り時間を数える必要もないと思ったが、煙の中に赤いものが見えた。
ポコバの紙製階級章だった。
火に最も弱いはずの紙が、ルセアの肩越しにぺたりと貼りついたまま残っている。
煙が晴れる。ルセアは腕を組んだ同じ姿勢で立ち、ポコバは鍋兜の中から干し芋を取り出していた。焦げていないどころか、温まってもいない。
「防火だけの一芸か!」
教官は魔砲台の鍵を奪い、城門攻撃用の《冥獄砲》を二人へ向けた。兵舎長が止める前に砲口が開き、地面を削る光と煙が運動場を走る。
ルセアは動かない。ポコバは背後で干し芋を半分に割り、彼女の分を残していた。
光が消えたあと、運動場には二人の立つ円だけが元の高さで残った。教官は測定盤を叩く。針は振り切れ、数字の代わりに小さなひよこの絵が一瞬浮かび、それすら消えた。
《防御値:測定不能》