黒板消しは二度落ちる

社会科の小テスト中、黒板消しが床へ落ちた。

中から、年号を書いた細長い紙が飛び出した。

「早蕨莉都、前の席だから入れられたよね?」

学級委員の島津野美羽が言った。先生も、試験前に黒板を消したのは莉都だと覚えていた。

莉都は教室で一番小柄で、声も大きくない。美羽は以前から、何かなくなるたび莉都の机を先に探した。今日も同じ流れになるはずだった。

しかし莉都は、黒板の上を指した。

「ハムスター、見てました」

教室で飼っているハムスターの巣箱には、休日観察用の小型カメラが付いていた。巣箱は黒板脇の棚にあり、画角の半分へ黒板消し置き場が映っている。莉都は飼育係だったため、録画アプリへアクセスできた。

映像では、試験開始前、美羽が一人で黒板消しを開き、紙を押し込んでいた。莉都が黒板を消したのはそのあとだが、中を開けてはいない。

美羽は飼育映像なんて証拠にならないと言った。

すると莉都は、教卓の下からもう一つ黒板消しを取り出した。

「さっき落ちたの、二個目です」

学校の黒板消しには、底に番号がある。莉都が使ったのは一号。紙が入っていたのは二号だった。映像には美羽が二号を棚へ置き、一号を教卓の下へ隠すところまで映っている。

先生が紙を開く。そこには美羽の筆箱に入っている紫色のペンと同じインクで年号が書かれ、最後の一行だけ書き損じていた。美羽の机から、その続きがある下書きも見つかった。

さらにハムスター用カメラのマイクが、美羽の独り言を拾っていた。

『また莉都のせいにすれば、みんな信じる』

教室の誰も笑わなかった。

先生は莉都の答案を返し、美羽の答案を回収した。これまで莉都が疑われた紛失事件も、録画保存期間内のものから調べ直すと告げる。

莉都は一号の黒板消しを棚へ戻した。驚いたハムスターが巣箱から顔を出す。

先生が出席簿の不正欄から早蕨莉都の名を消し、島津野美羽と書き換えた。

黒板消しが今度は先生の手から落ちた瞬間、教室で最も小さな目撃者が、いちばん大きな濡れ衣を払い落とした。