『面接番号一〇八の再採点』

射水化学の新卒最終面接で、雨森那由はインターン評価一・五の理由を問われた。

三週間の研究補助では成果発表が最優秀だった。それなのに採用担当の早瀬慶吾は、「指示に従わず、機密管理にも不安」と読み上げる。役員二人は面接前から不採用欄に印を付けていた。

那由は答える代わりに、応募番号を確認した。

「一〇八です。評価フォームの版履歴を見ていただけますか」

早瀬は「学生に見せる記録ではない」と遮ったが、役員が開かせた。実習最終日の評価は四・八。指導員三名のコメントも〈採用を強く推薦〉で一致している。翌朝、早瀬のアカウントが一・五へ変更し、機密管理の警告文を追記していた。

「指導員から口頭で訂正があった」

三名に送られた評価確定メールを確認すると、全員が四・八を承認している。CCには早瀬も入っていた。訂正依頼は一件もない。

那由は、インターン最終日に送ったメールを役員へ転送した。実験データを私物端末へ移すよう早瀬から指示されたが、規程違反なので拒否した、とコンプライアンス窓口へ報告した文面だった。送信から九分後、早瀬は採用室を一人で予約し、那由の評価を下げている。

「報復ではありません」

早瀬は声を強めた。「命令に従えない学生を評価しただけです」

通報窓口の受付記録には、早瀬が那由のメールを〈指導上の行き違い〉として当日中に処理済みへ変えた履歴もあった。担当者は別人なのに、採用管理者権限で割り込んでいる。翌週、那由だけインターン表彰の候補一覧から削除され、その操作も早瀬名義だった。

役員の一人が尋ねた。「私物端末への移送を命じたのですか」

早瀬はそこで、自分が守ろうとした嘘を取り違えたことに気づいた。

役員は那由の不採用印を二本線で消し、原評価四・八に基づく内定へ切り替えた。もう一人の役員は早瀬の採用システム権限を停止し、調査対象へ登録する。

「規程に従わなかったのは、応募番号一〇八ではありません」

面接室を出る前に決まったのは、那由の不採用ではなく、面接官の交代だった。