『四十三番席の予約者』

懲罰異動の面談で、社員は地方支社への辞令を見せられた。

理由は機密資料の漏洩。本人のアカウントから、人員削減計画が社外へ送られていた。

「解雇にしないだけ温情だ」と部長は言った。

社員は送っていないと繰り返した。送信日は全社研修で別の階にいたが、部長は「席を抜けて操作できる」と取り合わなかった。

人事担当が、退職した受付担当者のファイルを開いた。名前は「四十三番席.csv」。

受付担当者は、自由席の予約記録を毎日保存していた。問題のメールが送られた時刻、社員の予約席は十二番。四十三番席は部長の親族である契約社員が予約していた。

部長は「席と端末は一致しない」と言った。

ところが送信元端末は四十三番席。社員のアカウントは、パスワードではなく一時認証番号で入られていた。番号の送付先は社員の業務用携帯だったが、その携帯は研修前に部長が「持込禁止」として預かっていた。

「保管箱には全員の携帯があった。誰でも取れた」

退職者のファイルには、保管箱の貸出表もあった。鍵を借りたのは部長。返却はメール送信の五分後。防犯上、受付担当者が毎回記録していた。

契約社員は俯いたまま言った。

「資料を確認するだけだと聞きました」

部長が睨む。

人事担当は共有ファイルの履歴を示した。部長は送信前日、人員削減計画から自分の親族の名を削り、代わりに社員の名を追加していた。漏洩事件を起こして社員を異動させ、その空いた昇進枠へ親族を入れる予定だった。

部長は「受付担当者が退職後に記録を作った」と反論した。

ファイルの最終更新は退職日の午後五時。以後は読み取り専用。四十三番席の予約通知は、当時部長にも自動送信され、開封済みだった。

人事担当は辞令を回収した。

「懲罰異動を撤回します。主任昇格の保留も解除します」

部長が何か言う前に、契約社員の更新欄が灰色になった。

「不正利用に関与した契約は更新しません。指示した管理職は、監査終了まで自宅待機です」

社員の席番号は十二のままだったが、画面上の職位だけが一段上がった。