お守りの貸出期限
そのお守りは、部内で何度も持ち主を変えていた。
最初に作った先輩が地区大会へ持っていき、次にけがをした主将へ渡し、その次は受験を控えたマネージャーへ。紺色の布は色あせ、金色の糸もほつれている。
僕が借りたのは、転校試験の前日だった。
「期限は合格発表まで」
彼女が下駄箱で渡してくれた。
僕は親の都合で、二学期から遠くの学校へ移る。転校試験に落ちれば別の町になる。受かっても、ここへ戻るわけではない。
「返す必要ある?」
「部の共有物だから」
「郵送する」
「自分で返して」
それは、もう一度会いに来いという意味に聞こえた。都合よく考えすぎかもしれない。
試験の日、お守りは鞄の内ポケットに入れた。面接で『今の学校で心残りはありますか』と聞かれ、答えに詰まった。
部活。教室。帰り道。彼女。
全部は言えず、『あります』とだけ答えた。
合格発表の翌日、僕は学校へ行った。夏休みで校舎は静かだったが、彼女は昇降口にいた。
「合格した」
お守りを差し出すと、彼女は受け取らなかった。
「期限、延長」
「いつまで」
「新しい学校で、友達ができるまで」
「それ、確認できないだろ」
「連絡して」
彼女はそう言って、紺色の布を僕の手へ戻した。
転校後、毎週のように写真を送った。新しい教室の窓。初めて食べた学食。入部した部の集合写真。
友達ができたと報告すると、彼女から『返却日を決めます』と返事が来た。
冬休み、元の町へ戻った。
昇降口で会い、お守りを渡した。彼女はほつれた糸を指でなぞった。
「次、誰に貸すの」
「もう貸さない」
「共有物じゃないの」
「先輩たちに聞いた。最後に持ってた人が、渡したい相手へ渡していいんだって」
彼女はお守りを僕のコートのポケットへ入れた。
「じゃあ返却不要」
「期限は?」
「会いに来なくなるまで」
長すぎる期限だった。けれど、嫌ではなかった。
帰りの電車で、お守りの裏に新しい刺繍が増えているのに気づいた。
『おかえり』
僕は次の春休みの切符を、その日のうちに予約した。