まだ乾かない胸像

陶芸家の工房で、窯場の管理鍵が作業台から消えた。主宰の丹生谷は、無断焼成された贋作について三人を追及し、鍵を秤の脇へ置いた。薪棚が崩れる音に全員が振り向き、戻ると鍵はない。工房の扉は内側から掛けられ、窓には鉄格子があった。

容疑者は共同窯元の葛生、弟子の飯桐、収集家の乙供。窯場には贋作の型と焼成記録が残っている。衣服、道具箱、粘土桶を調べても鍵は見つからない。作業台の端には、午後の実演用に作った人物胸像が一体、濡れ布をかぶっていた。

丹生谷は贋作の焼成を止めるため、鍵が戻るまで窯の火入れを禁じた。葛生は弟子の不始末だと決めつけ、乙供は自分は買い手にすぎないと距離を置いた。飯桐は胸像の出来を気にして何度も濡れ布を直したが、造形への愛着だけでは、その一体だけ増えた重さを説明できない。

手掛かりは三つだけだった。第一に、丹生谷が渡した粘土は二千グラムだったのに、完成した胸像は乾燥分を考慮しても二十七グラム重かった。第二に、胸像の首の後ろには指幅ほどの新しい継ぎ目があり、そこだけ化粧土が乾いていなかった。第三に、薪棚の音の直前、ひびを直すと言って胸像を鍵のそばへ移したのは飯桐だった。

飯桐は「芯材の重さが一定とは限らない」と言った。しかしこの胸像は中空で、芯材を抜いた後に重量を記録している。増えた物は、継ぎ目から後で入れられたとしか考えられない。

私は首の継ぎ目へ糸を入れ、粘土を開いた。胸像の空洞から鍵が落ちた。「二十七グラムの増加、乾かない継ぎ目、胸像を鍵の隣へ運んだ機会。その三点が飯桐さんを示す。騒音の間に鍵を首から入れ、化粧土で塞いだのでしょう。粘土は柔らかいから、隠し場所を後から閉じられる。鍵は彫像の手に握られず、まだ名もない人物の胸の内へ隠されていました」飯桐さんは胸像を完成品に見せることで、誰も壊して調べないと期待したのでしょう。けれど乾くはずの粘土が重くなり、継ぎ目だけが濡れている。時間の流れに逆らう二点が、内部へ後から物を入れた一手を暴きます。