シャッターが降りるとき
日生蒼太の父は、手術室にいた。
成功率は高いと医師は言った。だが「高い」は「必ず」ではない。待合室にいられなくなった蒼太は病院を抜け出し、裏通りの願いの店へ入った。
「父の手術を成功させてください」
店主は受け付け、壁の時計を見た。
「願いがかなうのは、店を閉める瞬間です」
蒼太は店内の椅子に座った。
閉店は午後九時。あと十二分だった。
九時になると、店主が外の看板を片づけた。
「お帰りください」
「ここで待ちます」
「シャッターは、お客さまが出てから降ろします」
蒼太は動かなかった。
外へ出た瞬間に結果が決まる。もし悪い結果なら、自分が店を出たせいに思える。ここにいれば、手術は成功も失敗もしない。時間を止めておける。
九時十分。病院から何度も着信が来た。
母かもしれない。医師かもしれない。父が自分でかけている可能性まで考えた。それでも画面を見ることができない。
蒼太は携帯を伏せた。
店主は急かさず、床を掃いた。椅子を上げ、灯りを一つずつ消した。最後に蒼太の頭上だけが残った。
「閉めませんか」
「まだです」
「お父さまは、店の外で待っていますか」
蒼太は顔を上げた。
父は病院で待っている。結果がどうであれ、家族に戻るために手術を受けた。自分だけが、結果のない場所へ逃げている。
蒼太は立った。
戸口で足が止まる。
「もし、失敗したら」
店主は答えなかった。
答えがないから、蒼太は外へ出た。
背後でシャッターが降り始める。金属の音が、夜の路地に長く響いた。
完全に閉じた瞬間、携帯が鳴った。
母からだった。
蒼太はすぐに出られない。画面の緑のボタンへ指を置き、深呼吸した。
「もしもし」
母は泣いていた。
「終わったよ」
それだけでは分からない。
蒼太の喉が固まる。
「成功したって。今、先生が」
路地の壁に寄りかかり、蒼太は座り込んだ。
店のシャッターに額をつける。
願いがかなったのか、もともと手術がうまくいったのかは分からない。店主は何も説明しなかった。
翌朝、父はまだ眠っていた。
蒼太はベッド脇で、その手を握った。
結果を待つことは、何もしないことではなかった。
逃げずに扉の外へ出ることだった。