スクリーンショットを消す朝
日曜の午前九時六分、皐月は布団の中で円香の結婚報告を見た。
写真は三枚。役所の前で笑う二人、重ねた手、食卓に置かれた小さなケーキ。文章の最後に〈これからもよろしくお願いします〉とあった。
皐月は反射的にスクリーンショットを撮った。
円香とは以前、毎週のように会っていた。最近は互いに仕事が忙しく、誕生日のメッセージを送り合う程度になっている。付き合っている人がいることさえ聞いていなかった。
皐月は別の友人とのトーク画面を開いた。
〈円香、結婚したの知ってた?〉
そこまで打って、指が止まる。
知らせてもらえなかった寂しさを、誰かと共有したかった。自分だけ知らなかったのか確かめれば、少し楽になる気がした。けれど送った瞬間、円香の報告は、祝うものではなく答え合わせの材料になる。
布団の脇には、昨日食べた菓子パンの袋が落ちていた。カーテンの隙間から光が入り、床のほこりだけを明るくしている。画面の写真はきれいで、皐月の朝はまだ何も始まっていなかった。
投稿のコメント欄には、すでに何十件も祝福が並んでいる。そこへ同じ言葉を書くこともできた。だが、みんなに見える場所で明るく振る舞う気力はなかった。
皐月は入力した文章を消し、円香との個別の画面を開いた。
〈びっくりした。結婚おめでとう。落ち着いたら話を聞かせて〉
送信すると、すぐには既読がつかなかった。当然だ。日曜の朝で、結婚を報告したばかりなのだから。
皐月は撮ったスクリーンショットを削除した。最近削除した項目からも消す。誰にも送っていないのに、胸のざらつきが少しだけ薄くなった。
知らせてもらえなかったことを、寂しいと思っていい。だからといって、円香の人生を誰かとの会話の種にしなくてもいい。二つは両立する。
布団を出て、窓を開けた。菓子パンの袋だけ拾い、ほかの掃除はしなかった。
投稿には公開のコメントを残さなかった。個別に送った一文で、今朝の皐月には十分だった。祝福を大勢に見せなくても、ちゃんと相手へ向けることはできる。