ソーダ水の星座
棗坂水緒が腕を上げると、夜空に青い花火が開いた。
夏祭りの再開公演。八年前の爆発事故で中止されたダンス曲を、今夜だけ完全版で演奏する。泡のようなシンセと軽い掛け声で、観客がステージへ近づくほど星座が完成する仕掛けだった。
事故で水緒の弟を含む十一人が死んだ。主催者は、立入禁止区域へ観客が勝手に入ったことが原因と発表した。水緒は当時の司会者だったが、爆発前の数分を覚えていない。映像を見ると、自分だけが明るすぎる笑顔で映っていた。弟の靴だけが柵の内側から戻った。
イントロで、自分の若い声が流れる。
「もっと近くへ」
Aメロに合わせ、客席の光が一列ずつ前進する。花火の発射音は調律され、明るいドラムになっている。だが四発目だけ低い。点火筒が倒れた音だった。
水緒が映像を見上げると、事故当夜の観客は柵を越えていない。逆にスタッフが柵を外し、前方へ誘導していた。スポンサー看板をカメラへ大きく映すためだ。
サビで現在の観客も叫ぶ。
「もっと近くへ」
水緒の喉が締まる。イヤーモニターに主催責任者の指示が蘇る。
〈空席が目立つ。前へ寄せろ〉
〈安全距離を下回ります〉
〈司会、客を呼べ〉
そして自分は笑顔で同じ言葉を言った。記憶を失ったのではない。事故後、強い鎮静薬でその時間の記憶が途切れた。会社のカウンセラーは映像を見せず、自分は被害者だとだけ教え続けたのだ。
最後のサビ。水緒は振付どおり腕を上げず、下へ振った。点火システムが緊急停止し、予定された巨大花火は上がらない。代わりにスクリーンへ、事故時の安全距離変更ログと責任者の音声が映る。
客席は後ろへ下がり、中央に十一人分の空間ができた。
最後の一音は、花火ではなく弟の無線だった。
〈姉ちゃん、呼ぶな。みんなを下げて〉
水緒は膝をつき、八年前の自分の声へ答えた。
「もっと近くへ」
恋人や仲間を引き寄せる明るい掛け声ではない。利益のため安全距離を消し、人々を爆心へ集めた自分の罪の記憶だった。