チェック柄は禁止できない
私服行動の朝、邦彦は赤いチェックのシャツで現れた。
「昨日もそれじゃなかった?」
「昨日は青」
一昨日は緑だったらしい。旅行鞄には、母親が曜日ごとに畳んだチェック柄が六枚入っていた。
初日は青と白、二日目は緑と黒、寝間着まで細い格子だった。本人が選んだのは靴下だけで、それにも小さなチェックが入っていた。「家の箪笥が方眼紙に支配されてる」と邦彦は言った。母親は出発前、迷子にならない服を選んだと胸を張っていたらしい。目的だけは見事に果たされた。
集合写真で「方眼紙」と呼ばれ、班別行動では「目印に便利」と先頭を歩かされた。邦彦は笑っていたが、昼を過ぎるころにはシャツの前を閉じ、上着の襟を立てて柄を隠していた。
土産物屋で、彼は無地の観光地Tシャツを買った。金色の大仏が胸いっぱいに印刷された、チェックより目立つ服だった。
「それに着替えるの?」
「人は失敗から学ぶ」
店の試着室から出てくると、同じ班の女子が「あれ」と言った。
「チェックやめたの」
邦彦が理由を説明すると、彼女は少し残念そうな顔をした。
「人混みでもすぐ見つけられたのに」
それだけ言って、先に店を出た。
邦彦は大仏の胸を見下ろした。値札は切られている。返品はできない。しばらく悩み、Tシャツの上から赤いチェックを羽織った。
「学んでないじゃん」
私が言う。
「新しい利点が発見された」
帰り道、彼女は何度も振り返った。そのたび邦彦は、わざと少し離れて歩いた。見つけてもらうためだった。
旅館で消灯したあと、男子部屋の恋バナで、好きな人の特徴を一つだけ言うことになった。
邦彦は布団の中から答えた。
「振り返る人」
翌朝は黄色いチェックだった。昨日よりさらに派手で、廊下の端からでも分かった。
彼女は朝食会場で邦彦を見つけると、笑いながら手を振った。
修学旅行の写真には、邦彦がどこにいるか迷うものが一枚もない。
そして、どの写真にもだいたい、その少し前で振り返っている子が写っている。