フィルムが泣く前に

古い映画館の特集上映で、三十五ミリ映写機がフィルムを切った。残りの上映は一回。鴇田誠が映写室へ上がると、映写技師は切れた部分を接ぐテープを用意していた。

「古いプリントです。弱っていたんでしょう」

誠は床に落ちた切れ端を拾った。切断部だけでなく、その手前の穴が細長く伸びている。フィルムを送るスプロケットが無理に引いた跡だ。

映写機を空で回すと、入口側のループが少しずつ小さくなった。フィルムには映写部の上下に余裕の輪を作り、間欠的な動きを吸収させる。ループが消えれば、止まっている一コマを巻取側が引っ張る。

誠は巻取リールを手で回した。重い。トルククラッチが固着し、常に強い力でフィルムを引いていた。映写技師はクラッチへ油を差そうとしたが、誠は止めた。摩擦で力を調整する面へ油が入れば、今度は滑り続けて巻き取れなくなる。

そのプリントは海外の保管庫から一度だけ借りたもので、代わりの巻は国内にない。映写技師は切断部を長く切り落とせば安全だと言ったが、誠は一コマごとに光へ透かした。余分に切れば、その秒数だけ作品が永久に短くなる。急ぐ修理ほど、失ってよいものを勝手に増やしてはいけなかった。

クラッチを外すと、古いグリースが飴のように固まり、ばねを押したままにしていた。誠は分解して洗い、指定量だけ新しいグリースを入れた。切れたフィルムは最小限を切りそろえて接ぎ、伸びた穴の部分も一コマずつ確認する。

試写では不要な予告編を使った。スプロケットの歯が穴の中央を通り、入口と出口のループが同じ大きさを保つ。最後に本編を低速で送り、接合部が滑らかに通るのを見届けた。

開場ベルが鳴り、客席のざわめきが壁越しに届いた。映写技師は希少なフィルムの缶を両手で抱え、「泣かせずに済みました」と言った。

本編がスクリーンへ流れ始めたころ、隣の映写機から乾いた打音がした。二本立ての次作は、もうリール台に載っている。誠は暗い窓越しに一度だけ画面を見て、別の機械の蓋を開けた。