ホームの端から三番目

河瀬綾乃には、電車を待つ場所が決まっていた。

ホームの端から三番目の柱。その前に立つと、学校の最寄り駅で階段の正面に降りられる。

三田村修吾も同じ場所を選んだ。最初は互いに譲らず、次第に並ぶようになり、半年後にはどちらかが遅いと、もう片方が柱にもたれて待つようになった。

話すのは天気と課題と、昨夜のテレビくらいだった。

夏は柱の細い影に二人で入り、冬は風よけに使った。修吾が寝坊した日は綾乃が発車ベルぎりぎりまで待ち、綾乃が委員会で遅れた日は修吾が次の電車に乗った。『待っていた』とは互いに言わない。偶然同じ便になった顔をして、いつもの話を始める。それが毎朝の決まりだった。

二学期のある朝、修吾は来なかった。

翌日も、その次の日も。教室の席は空いたまま。担任から、父親の転勤で急に引っ越したと聞かされた。

連絡先を知らないことに、綾乃はそのとき初めて気づいた。

それからも彼女は三番目の柱に立った。場所を変える理由がなかったし、変えたら何かを認める気がした。

冬が終わり、春になった。

新入生がホームを埋める四月の朝、柱の向こうから声がした。

「そこ、まだ空いてた?」

修吾が立っていた。制服は同じだが、少し日に焼けていた。

「なんで」

「父さんの転勤、単身赴任に変わった。今日から戻る」

「連絡くらいしてよ」

「連絡先、知らなかった」

「探せば分かるでしょ」

「綾乃も」

腹が立つのに、笑いそうになった。

電車が来るまで三分。修吾は鞄から小さな紙袋を出した。引っ越し先の町の土産らしい。

「賞味期限、先月だけど」

「捨てて」

「半年持ってたの?」

「戻れるか分からなかったから、開けられなかった」

接近放送が流れる。綾乃は紙袋を受け取り、三番目の柱を半歩譲った。

「今日、階段の位置ずれるかも」

「なんで」

「新しいダイヤで一両増えた」

二人は顔を見合わせた。

半年守っていた場所が、もう正解ではないらしい。

電車が止まる位置を見て、二人は同時に走った。今度は柱ではなく、同じ扉を目印にした。