ラムネ色の補習
夏休みの補習は、午後になると教室の空気まで眠くなった。
先生が職員室へ戻った隙に、後ろの席の彼が自販機へ走った。
戻ってきた手には、青い炭酸飲料が二本。
「校内で買ったから買い食いじゃない」
「授業中に買ってる時点で違反」
一本を受け取った。
窓際で缶を開けると、泡が机へこぼれた。彼が走ったせいだ。
「最悪」
「夏っぽい」
「雑な季節感」
私たちは赤点組だった。
彼は部活ばかり、私は家の店の手伝いばかりで勉強が遅れた。理由は違っても、同じ教室に残された。
「将来、何するの」
彼が急に聞いた。
「店、継ぐと思う」
「思う?」
「親がそう言うから」
本当は、料理ではなく写真を学びたかった。家の食堂を撮るうち、光や色に興味を持った。でも、口にすると家族を裏切る気がした。
「僕、部活辞める」
彼はサッカーの推薦を狙っていた。
「怪我?」
「実力。たぶん届かない」
笑っているのに、缶を握る指が白かった。
「じゃあ何するの」
「分からない」
青い飲み物の泡が、透明な窓に映った。
「分からない同士だ」
私が言うと、彼は少し安心した顔をした。
「進路希望、白紙で出す?」
「先生に怒られる」
「二人なら?」
「怒りが二倍」
私たちは、白紙の代わりに仮の答えを書くことにした。
彼はスポーツトレーナーの学校。
私は写真の専門学校。
決定ではなく、今いちばん気になる場所。
「現実味ある?」
「ない」
「僕も」
「でも白紙より、ずっとまし」
補習最終日、担任へ進路希望票を出した。
先生は二枚を見比べ、珍しく笑った。
「赤点より難しい宿題だな」
教室を出ると、彼が自販機へ走った。
今度は歩いて戻ってきた。
「振ってない?」
「成長した」
缶を開けると、泡はこぼれなかった。
夏の終わり、彼は部活を辞めず、選手を支えるコースを探し始めた。私は家の店を撮った写真を学校の展覧会へ出した。
どちらも、希望票に書いたままではなかった。
それでも、青い炭酸を飲みながら仮に書いた答えが、白紙の未来へ最初の色をつけた。