一ポイント残る宝箱
真砂リツカのHPが一で止まった。
《生存者分配》
ギルド員から受けたダメージでは、HPは一未満になりません。
宝箱はHP一以上のメンバー全員へ分配されます。
「なぜ死なない!」
団長はもう一度剣を振るう。表示は《0ダメージ》。リツカの周囲には、同じくHP一で倒れた仲間が六人いる。
竜王討伐後、団長は「報酬は生存者だけ」という説明を読み、負傷者を始末して独占しようとした。だが生存者分配の保護規則まで読んでいなかった。
「なら除名だ」
役職窓を開く。リツカは笑った。
「戦闘は終わってないよ」
竜王のHPはゼロだが、宝箱を開くまでレイド継続扱い。戦闘中の大量除名は報酬放棄として記録され、除名実行者の分け前が対象者へ移る。
団長は手を止める。
リツカは這って宝箱へ向かった。団長が道を塞ぐ。攻撃しても殺せないなら、箱を先に開ければいいと考えたのだ。
箱の蓋に七つの手形が浮かぶ。
《生存者全員の接触が必要》
一ポイント残された七人が、床を這って手を重ねる。団長だけは満タンのHPで立っているのに、手形がない。
彼は戦闘終了前に仲間を殺そうとした時点で、《生存者》ではなく《分配妨害者》へ分類されていた。
箱が開く。七人へ均等に報酬が届き、団長の欄だけ空白になる。
《竜王レイド完了》
《生存者七名へ報酬を分配》
HP一の者たちは、報酬を受け取ってもすぐには立てなかった。団長は満タンの身体で一人だけ立っている。
リツカは最初の回復薬を彼ではなく、隣で息をしている新人へ渡した。団長を殺すためではない。生存者の輪へ戻るには、自分で誰かを生かす行動を選ぶ必要があると思ったからだ。
宝箱の底には八つ目の空の手形があった。分配妨害者が謝罪し、被害者全員の承認を得れば復帰できる欄だった。
団長は手を置けず、初めて報酬ではなく七人の顔を見た。
《HP一を敗北として扱いません――仲間の刃で最後の一ポイントを奪えなかった者たちを、全員生存者として記録します》