一枚だけ両面

契約課の新人、大庭莉子は、書類を片面でコピーするよう何度も教えられていた。裏面に古い情報が残ると事故になる。だから廃棄物収集車の入札書を綴じるとき、一枚だけ厚く感じたことに気づいた。

四社目の価格内訳書が両面印刷になっていた。表には車両単価と保守費。裏には横長の表がある。

『今期本命・南部車輌』『次期本命・中央機工』『辞退役・二社』

各社の入札予定額まで並んでいた。今回の最安額は、表に書かれた数字と一致する。

莉子が課長へ見せると、課長は紙を奪い、コピー室の裁断箱へ入れた。

「業者の内部資料だ。審査対象ではない」

「競合四社の金額が、開札前に一枚へ載っています」

「見なかったことにしろ」

原本はすでに審査ファイルへ戻され、裏面を内側にして糊付けされた。だが莉子は、コピー機のミスプリント記録を保存していた。機械は両面を自動スキャンしてから印刷する。管理画面には裏面画像が残っている。

落札決裁会議で、課長は「四社による十分な競争」と説明した。委員長が契約書へ印を押す直前、莉子はコピー機の監査画面を映した。

「一枚だけ、裏があります」

課長は立ち上がった。莉子は表裏を並べる。表の最安額と、裏の『今期本命』の額が同じ。残る三社も一円違わず一致した。画面右下には、開札前日のスキャン時刻。

委員長は原本の糊付けを指で剥がした。紙が乾いた音を立て、裏面の表が現れる。

委員の一人が、裏面は業者が勝手に作った予測表かもしれないと言った。莉子は表の右端にある管理番号を拡大した。四社すべての提出書類に印字された整理番号と同じ連番で、しかも発行元は地区車両協会だった。価格だけでなく、辞退届を出す時刻と質問書を送る担当まで書かれている。実際の受付記録は、その時刻どおりだった。予測ではなく、手順書だった。莉子が頁を送るたび、実際の受付時刻と表の指示が同じ順に並んだ。

決裁印は朱肉の横に置かれたまま、一度も持ち上げられなかった。