一秒だけ開く剣

濁流が地下都市へ迫り、雪代モモカはひび割れた剣を水門の差込口へ突き立てた。

《耐久水門》

差し込んだ装備の残耐久値と同じ秒数だけ開きます。

《欠けた銅剣》

攻撃力:1

耐久値:1

「一秒じゃ排水できない!」

隊長は耐久値千の神剣を構える。だが水門の先は外海だ。千秒開けば逆流し、都市ごと沈む。必要なのは、発電水車を一回だけ回す量の水だった。

モモカが銅剣を押し込む。

水門が一秒だけ開く。細い奔流が水車を叩き、すぐに剣が砕けて門が閉じた。

水車は半回転で止まる。制御灯が一つ点いた。必要なのは三回転。

「失敗だ」と誰かが言う。

モモカは初心者装備の残骸置き場へ走った。耐久値一の銅剣は、開始村で大量に配られ、誰もが捨てていた。拾った二本目を差し込む。一秒。二つ目の灯。

濁流が膝まで来る。三本目を探すが見つからない。

少年NPCが、錆びた剣を差し出した。

「父の初期装備です。ずっと直さずに残していました」

耐久値一。モモカは受け取り、水門へ刺す。

三度目の一秒で水車が一回転し、都市上部の非常扉が開く。排水ではない。住民を高台へ運ぶ昇降機が動き始めた。

隊長の神剣なら水車は回り続けただろう。だが非常扉の先にある古い機構は、三秒以上の連続運転で焼き切れると警告が出ている。

《地下都市排水:失敗》

《水門開放合計:三秒》

三本目の銅剣が砕けたとき、少年は父の形見を失った。それでも昇降機へ乗った住民を見て、泣きながら笑う。

「父は、壊れない剣を残せなかったって謝っていました」

モモカは床の銅片を一つ拾って渡した。

「壊れる時を選べた。十分強いよ」

非常扉が閉じた後、外海の水圧は都市を通り過ぎた。三秒より長ければ、形見も人もすべて流されていた。

昇降機の壁には、三本の銅片が新しい非常印として埋め込まれた。壊れやすい物を捨てず、必要な一秒のために残す印だった。

《非常昇降機を起動――長く持つ武器では救えなかった都市を、一秒で壊れる剣三本が持ち上げました》