七メートルより短い鍵

小此木晴正が水無瀬万里の玄関錠を交換することになったのは、万里の部屋へ空き巣が入ったからだった。

「業者を呼べばよかっただろ」

「お前が鍵屋だと聞いた」

二人は高校のハンドボール部で同じバックプレーヤーだった。万里が監督の暴力を学校へ報告し、部は活動停止になった。全国大会を目前にしていた晴正は、告発者を責めた。後に監督は処分されたが、晴正は一度も謝らなかった。推薦を失った部員たちの怒りを、自分の怒りだと思い込んでいた。万里は卒業式にも来なかった。

玄関のシリンダーには工具の傷が残っていた。万里は昨夜から眠っておらず、部屋には割れたコップが片づけられずにある。

晴正は古い錠を外し、万里にドアを押さえさせた。ねじ穴が潰れていて、新しい錠が水平に入らない。万里が力を入れるたび、ドアが震えた。

「七メートル投げるより近いだろ。押さえろ」

「近い方が怖いこともある」

晴正は言い返さず、ずれた受け金具を削った。金属粉が床へ落ちる。万里は掃除機をかけ、晴正の手元へ灯りを向けた。かつて速攻のとき、互いの視界を補ったように。

新しい錠は暗証番号式だった。初期設定を消し、万里が四桁を決める。指は途中で止まった。

「誕生日はやめろ」

「分かってる」

「背番号も」

「それも分かってる」

結局、万里は無関係な数字を入れた。晴正は見ないふりをした。施錠と解錠を三回試し、ドアは正しく閉まった。

作業代を渡され、晴正は受け取らなかった。

「仕事だ」

「なら請求書を送る」

「住所、変わる」

空き巣は現金ではなく、賃貸契約書と通帳を荒らした。万里はここを出るつもりらしい。次の部屋は決まっていない。

晴正は工具箱から予備キーを一本出し、万里の掌へ置いた。

「これはこの錠のじゃない」

「俺の部屋のだ。鍵交換まで預かる」

「何日」

「業者だから、壊れ方次第」

万里は笑わなかった。ただ、割れたコップを袋へ入れ、着替えを一組まとめた。玄関を出る前、新しい錠を一度だけ閉めた。晴正の部屋の鍵は、昔の背番号が刻まれたキーホルダーへ通された。