七分遅れの一面
午前一時四十分、新聞工場の輪転機が、一面だけ白いまま紙を吐き出した。
印刷工程の紙屋慎は、ベルトを流れる試し刷りをつかんだ。二面以降は鮮明なのに、一面の下半分だけ何もない。締切から七分。配送主任は「そのまま刷れ、白い所は号外欄だと言えばいい」と怒鳴った。
慎は輪転機を止めた。白紙の原因が版なら一面だけで済む。だがデータの詰まりなら、次の版まで連鎖する。
紙面データはRIPで印刷用の画像に変換され、スプールに並び、刷版機へ送られる。監視画面では一面が完了になっていた。しかし出力容量が他ページの半分しかない。広告会社から深夜に差し替えられた全面広告のPDFが壊れ、RIPが途中までしか読めないまま「完了」を返していた。
「広告を外して再出力します」
営業当直が電話口で反対した。「大口だぞ。勝手に外せない」
「載せれば、社名の下が真っ白です。外すより苦情になります」
慎は広告を別の端末で開き直さなかった。壊れたファイルを何度も処理すれば、RIPの待ち列が詰まり、全ページが遅れる。広告枠を自社のお知らせへ差し替え、一面だけ新しいスプールへ送った。元のファイルは隔離し、朝に営業が補償判断できるよう記録を残す。
刷版機から新しい版が出る。慎はすぐ本刷りを始めず、最初の一枚を光に透かした。見出し、写真、ページ番号。白かった場所には、小さな購読案内が載っている。
輪転機が再び唸り、紙の川が黒い文字をまとった。慎は百部目を抜き取り、途中から白くなっていないことまで確かめた。遅れは十一分。配送主任は舌打ちしながらトラックの順番を組み替え、遠い販売店向けから先に積ませた。
慎が壊れた広告を封印した時、編集部から次版の差し替えが届いた。河川氾濫の記事を一面に入れるという。
「あと何分で版を替えられる?」
慎は新しいPDFの容量を見た。今度は大きすぎる。
「七分ください。白紙にしない七分を」
輪転機は止まらない。朝刊を作る仕事は、締切を守ることではなく、締切の中で読むに値する紙を残すことだった。