三か月だけ会ってみる

初音は、結婚相談サービスの入会申込書を二度破った。

一度目は二十八歳の冬。二度目は二十九歳の春。どちらも最後の質問で手が止まった。

〈いつまでに結婚したいですか〉

一年以内、二年以内、できるだけ早く。

どれを選んでも、相手ではなく締切を探しているように思えた。かといって空欄のままでは、真剣さがないと判定されそうだった。

「わからない」という選択肢はなかった。

独身でいる不安はある。休日の夜、誰とも話さず一日が終わると、このまま時間だけ進む気がする。けれど、不安があることと、結婚の期限を決められることは同じではない。

三十歳の誕生日まで残り四か月になった日、相談所から三通目の申込書が届いた。今回は〈三か月体験コース〉の案内が同封されている。

本登録なら一年契約。体験なら紹介は月二人までで、成婚料もかからない。

初音は二枚のカレンダーを机に置いた。

一年後まで印刷された薄い手帳。

三か月だけ切り取った卓上カレンダー。

一年を選べば、本気になれる気がした。三か月では、逃げ道を残しているようにも見える。担当者へ電話すると、「年齢を考えると本登録のほうが効率的です」と勧められた。

その言葉に胸が縮んだ。効率よく誰かを好きになる自信などない。それでも、誰にも会わないまま不安だけを育てるのも嫌だった。

「体験コースにします」

初音は答えた。

申込書の〈希望する結婚時期〉には、手書きで〈未定〉と加えた。規定外なら返されるかもしれない。それでも空欄にはしたくなかった。

数日後、受理の連絡が届いた。最初の紹介相手のプロフィールも添付されていた。写真を開く前に、初音は一度深呼吸した。

三か月で何も起きないかもしれない。断られ、自信をなくし、払った会費を惜しむかもしれない。反対に、誰かと出会っても、期限の先へ進まない選択をするかもしれない。

初音は卓上カレンダーの開始日に丸をつけた。

一生を決めるためではない。今の自分が会ってみたいと思った三か月を、焦りのせいにも、周囲のせいにもせず使う。その短さも、終わったあとの空白も、自分で引き受けるために。