三脚の外側

十八時五十分。写真館の閉店まで十分、水城裕誠は佐原玲果を白い背景の前へ座らせた。撮るのは婚活用のプロフィール写真。学生時代からの友人に頼む仕事ではないと断ったが、玲果は「いちばん自然に笑わせられるから」と押し切った。

裕誠の三脚には、玲果が十年前に貼った小さな月のシールがある。二人で夜景を撮りに行き、暗闇で自分の三脚を見失わないようにつけたものだ。以来、就職写真も家族写真も撮った。玲果だけはいつもレンズではなく、その後ろにいる裕誠を見て笑った。その視線を、裕誠は撮影者への信頼だとだけ解釈していた。

「登録したら、誰かに選ばれるかな」

「今日の写真なら大丈夫」

「裕誠が選ぶなら、どれ?」

「友達の顔じゃなく見えるやつ」

玲果は一瞬だけ目を伏せた。

「そんな顔、撮れた?」

「撮れるまでやるよ。仕事だから」

十八時五十七分。二十枚目で、玲果は静かに笑った。裕誠はそれを選び、データを書き出す。玲果は次の予定があると言い、カメラバッグを残して更衣室へ向かった。

「先にアップしておいて。待ち合わせに遅れる」

「初回の相手?」

「うん。今日決めた」

彼女が出たあと、バッグの内ポケットから古いメモリーカードが落ちた。中には十年前の夜景と、撮影前の試し撮りが残っていた。最後の一枚には、三脚の高さを直す裕誠の背中と、鏡越しに彼を見る玲果が写っている。

画像のファイル名は〈好きな人に撮ってもらえば笑えるか実験〉。隣のテキストには、当時の玲果の文章があった。

〈成功。でも裕誠は「友達なら何枚でも撮る」と言ったので、言わない〉

裕誠はその言葉を覚えていた。照れ隠しのつもりだった。玲果には、レンズの外へ出るなという指示に聞こえていた。

十九時。玲果から〈アップできた?〉と届く。待ち合わせ場所は写真館の向かいだったが、彼女はもう別の男の傘へ入っていた。

裕誠は選んだ一枚を婚活サイトへアップロードし、公開ボタンを押した。画面の玲果は、十年前と同じように彼のいた位置を見て笑っていた。