下水から来た客を返品します

「魔力ゼロ。皿洗い以外に置き場所がないわ」

宮廷料理長は、柊木叶を晩餐会場の裏へ追いやった。

転生前、叶は通販会社の返品窓口で働いていた。王城に召喚されたものの、鑑定で何も出ず、勇者の祝宴では残飯桶を運ぶ係になった。

第一の皿が配られた瞬間、床の排水口が泡立った。

灰色ウーズが何十体も這い出す。下水に棲む低級魔物だが、食べたものの性質を取り込む。香辛料、油、銀食器を飲み込み、急速に巨大化した。

近衛兵が剣を振るうと、切れたウーズは二体に増えた。

さらに王妃の杯から、同じ灰色の泡が浮かぶ。襲撃に紛れて毒が仕込まれていたのだ。玉座の陰では、宮廷魔術師が密かに転送陣を閉じようとしている。

「会場ごと凍らせろ!」

料理長が叫ぶが、客まで凍る。

叶は残飯桶の横にあった納品票を取った。送り主、品名、数量、受取人。どの世界でも、返すには経路が要る。

「注文していないものは、お受け取りできません」

彼女は《完全返品》を一度だけ申請した。

晩餐会場に、無数の白い伝票が舞った。

灰色ウーズは一体ずつ小さな包みに変わり、排水口ではなく、召喚した者の足元へ積み上がる。飲み込まれた銀食器と料理は、傷一つなく各テーブルへ戻った。王妃の杯に入っていた毒だけが黒い小瓶へ収まり、送り主欄に宮廷魔術師の名を浮かべる。

最後の巨大ウーズが包みに変わると、その内側から災害級の腐食核が現れた。それも封印箱へ入り、魔術師の腕の中へ返送された。

王城の転送量を測る配送水晶が、処理件数一件と表示したあと粉々に砕けた。何百もの魔物を、一つの誤配送として扱ったためだ。

王妃イザベルが玉座から立ち上がり、杯を置いた。

「返品理由は?」

「危険物。説明不足。送り主の悪意です」

近衛兵が宮廷魔術師を囲む。

料理長は叶へ残飯桶を押し戻そうとしたが、王妃が白い伝票へ王印を押した。受取人欄には、叶の新しい役職が現れる。

――王室危機受付官。

晩餐客たちは、自分の皿より先に彼女の返答を待った。数分前まで皿洗いだった女の一言が、今や王城で最も重い受領印になっていた。