丸くない団子

江波戸鈴花は、婚約者の母へ持っていくはずのみたらし団子を、一人で味見した。

週末、両家で食事をする。先月会ったとき、婚約者の母は「結婚したら息子のお弁当が楽しみね」と笑った。悪意のない声だった。鈴花も笑って、料理は祖母に仕込まれましたと答えてしまった。

ほんとうは、祖母の隣で食べる専門だった。橋梁設計の仕事は好きで、帰宅は遅い。結婚後に仕事を減らすつもりも、毎朝弁当を作るつもりもない。それを婚約者へさえ、まだはっきり言えていなかった。以前、不安を口にしたとき、彼は「母も深い意味はないよ」と笑った。その言葉で問題が消えたふりをし、鈴花も笑った。今度の食事でまた同じ話になれば、自分の代わりに誰かが断ってくれることを期待していた。

見栄を取り戻すため、祖母のレシピ帳を開いた。白玉粉へ水を少しずつ足す、とある。けれど生地は指に張りつき、丸めた団子は卵形や三角になった。

茹でれば、形の悪いものから浮かんだ。

醤油と砂糖の香りが立つたれを絡める。団子はもっちり歯へ返り、濃いたれが唇へ薄く残った。味は祖母のものに近い。形だけが、店に並ばないほど不揃いだった。

鈴花は一番丸い団子を先に食べた。写真にするなら、それだけを皿へ残せばよい。残りを自分で食べ、きれいな一本を手土産にすれば、誰にも嘘はばれない。

二個目へ箸を伸ばし、止めた。

レシピ帳の頁の端に、祖母の追記がある。

〈鈴花、丸めるのを途中で飽きる。味は同じ〉

日付は十五年前だった。祖母は鈴花が作れないことを、ずっと知っていた。団子を丸めるより、祖母の台所で橋の絵ばかり描いていたことも覚えていた。それでも「仕込んだ」と親戚へ笑っていたのは、上手に作れる娘に見せるためではなく、台所にいた時間を守るためだったのかもしれない。

鈴花は丸い団子ではなく、三角の一個を食べた。残りは不揃いなまま箱へ並べる。

婚約者へ写真を送り、続けて打った。

〈これを持っていく。料理は得意じゃない。仕事も減らさない。先にあなたからではなく、私の口で話したい〉

箱の隅に、一個分の空いた場所があった。

そこは失敗を隠した穴ではない。鈴花が自分で食べて、自分の言葉を取り戻した跡だった。