二人目の婚約者
甲良絵麻が結婚式場の相談室へ入ると、同じテーブルに鷲尾夏生が座っていた。
二人とも、柚原未有から「少し遅れる」と連絡を受けていた。
係員が困った顔で二冊の申込書を見比べる。
「柚原様のお相手は、甲良様でよろしいでしょうか。それとも鷲尾様でしょうか」
絵麻と夏生は同時に顔を上げた。
申込日は三週間違い、希望日は半年違い。どちらにも未有の署名があり、備考欄には「家族には当日まで内緒」と書かれていた。
夏生が左手を見せた。細い銀の指輪。絵麻の指にも、同じ意匠の指輪がある。
「未有から、特注だって聞きました」
「私もです」
二人は怒鳴り合わなかった。係員に別室を借り、互いのメッセージを確認した。未有は絵麻には「夏生は仕事上の共同経営者」、夏生には「絵麻は離別済みの元恋人」と説明していた。
やがて未有が駆け込んできた。
二人を見て足を止め、それから絵麻へ向かう。
「違うの。夏生とは事業のためで、結婚はあなたと――」
「私には、絵麻さんとは過去だと言ったよね」
夏生の声は低かった。
未有は今度は夏生へ手を伸ばす。
「今は混乱してるだけ。ちゃんと一人を選ぶから」
絵麻は指輪を外した。
「選ぶのは、もうあなたじゃない」
夏生も同じ形の指輪を外し、テーブルへ置いた。
未有は二人の間で息を詰まらせた。
「待って。式場の予約金も、店の開業計画も、全部どうするの」
絵麻は未有のブランドに貸していた図案の使用許諾終了通知を出した。夏生は、共同経営予定だった店舗への出資撤回書を置いた。どちらも契約に定められた期限内で、手続きはすでに受理されていた。
係員が二枚のキャンセル届を確認する。
「甲良様分、鷲尾様分ともに、柚原様を申込代表者として解約となります。予約金の返金先も柚原様名義です」
未有が安堵しかける。
係員は続けた。
「ただし、二件とも規定によりキャンセル料と相殺されます。追加のお支払い額はこちらです」
未有の前へ、一枚にまとめられた請求書が差し出された。
絵麻と夏生は目を合わせ、同時に席を立った。
テーブルには、同じ形の指輪が二つだけ残った。